六話 明かしたいんだけどね
120……嬉しすぎて目から血が
グリズリーを倒し、クエストの薬草採取も済ませた葛葉は町へと続く街道を歩く。葛葉の防具は血だらけで、戦闘の激しさを物語っている。
「……葛葉ちゃん」
「…………はい」
「ボクは……あの戦い方は嫌いだ。イカれてるとしか表現できない」
「……そう、ですよね」
葛葉自身も分かっている。あの戦い方が正しい訳がない、あれが戦いと言えるかと問われたならば間を空けずに違うと即答できる。
あの緋月ですら険しい顔をするのだから。
「特訓の時にああいう戦い方をしたら、ボクはそこで終わりにする。あんな戦い方をする弟子を育てたくは無い」
「……分かりました」
厳しく言う緋月の言葉を葛葉は受け入れ頷く。自分だってあんな戦い方をしたい訳がない。ただ、あれしかなかったんだ、ラグスの居ない今葛葉がモンスターと渡り合える方法は。
「……葛葉ちゃんの特徴は抑えたよ。明日から早速始めるからね」
「はい。お願いします」
「あぁ」
街の門に着き二人は言葉少なに、別々に方向へ去ってしまう。葛葉の戦い方は……正義か悪か以前の問題だ。
あれはどちらでも無い。ただ言えるのは、追い込まれた鼠が猫に襲い掛かるかのような、弱者の編み出した決死の一撃ということだけ。
「ボクは……いや、これは私情すぎるか」
一度振り返り、遠ざかっていく葛葉の背を見つめ何かを呟こうとしたが、それを憚るのは自分の意思だ。それに、これはただのエゴだ。
「やっぱり、人には見せれんよなぁ」
緋月と別れた後、葛葉は周りの視線を集めながら昼食を食べに手頃な店を探す。ギルドに行く前に、まずは腹ごしらえだ。
(そういや、ギルド以外で食ってねぇな)
ギルドが便利な為、一々外で食べる必要はないのだ。というか、それだったらギルドで食えばいいが、今は緋月と会うのが気不味い。大通りを歩き、店の看板を見ては吟味していく。
「なんか良さそうなのは〜っと」
前世ならばそこら辺のコンビニで弁当とかおにぎりを買って食えば済むが、生憎この世界にコンビニなんてものは存在する訳もなく。手頃と入っても、店の評価は知らないし、実際うまいのかも分からない。
食べログが欲しいと願ったのは初めてだった。
そう思いながら歩いていると、目の前の裏路地から小さな影が飛び出してき、葛葉は食べる事しか考えておらず避けきれなかった。
「……痛たたた」
「――っ‼︎ わあぁぁ、すいませんすいません! とんだ御無礼を!」
尻餅をつき、強くぶつけてしまった臀部を摩り、飛び出して来た人物を見る。
飛びだして来た影の正体の、甲冑風の軽装を見に纏った黒髪の少女だった。
葛葉は初めて経験する、アニメとかの吸い込まれるー的な現象が葛葉を襲った。
夜空の様な髪、煌びやかな黒色は正に夜空の様で。同色の目は宝石よりも美しく綺麗だ。その童顔と小顔のせいで、ロリっ娘に見えるが多分歳は葛葉と変わらんだろう。(前世の年齢では無くこの世界の年齢だが)
「あ、あの大丈夫ですか」
「あ、うん。平気平気」
少女が泣きそうな顔で尋ねてき、葛葉は笑って言う。まぁたいして痛くも無いが。
「んだと‼︎ 逃しただぁ!? 何やってんだテメェらは‼︎」
と怒鳴り声が少女の出て来た裏路地の奥から聞こえて来た。少女が怯える様に葛葉の後ろへ来て、耳を塞ぎ屈み込む。プルプルと体が震えていた。
「クソッ‼︎ 手分けして探すぞ! 見つけたら俺に報告しろ! 舐めた事したあのガキには痛い目ぇ見てもらうしかねぇからなぁ‼︎」
またしても聞こえてくる怒鳴り声。と同時にドタドタと複数の足音が迫ってくる。
葛葉は少女を露店の側にやり、見えないような死角に滑り込ませ、自分で隠す。そして一秒もせずに路地裏の入り口からゴツい体格の男達がわらわらと出てきた。
「はい、百五十フェルちょうどですね。ありがとうございました〜」
男達が去っていく中、葛葉はカモフラージュとして露店で飲み物を買っていた。(さっき男達の中でリーダーっぽい男も目があった気が……)
「大丈夫?」
「あ、ありがとうございます!」
ぺこぺこと頭を何度も下げてくる少女。どうやら本気で怖がってたらしい。声を掛けた葛葉が、一心不乱に何度も下げる少女にちょっと引くが。
まぁまぁ、と葛葉は少女を宥める。
「それより、あの人達は?」
「……うーっと、何でしょうか。どう言えばいいのやら……」
「分からないのね。それじゃ、何で追われてるの?」
「うっ! そ、それがーそのーでして」
指を合わせてモジモジしだす少女。そんな少女の話を聞くために、葛葉は少女と共にその場を後にした。
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