八話 お仕置き♡
♡付きのお仕置きをされてみたいですね!
―――少しずつ歩くスピードを上げて、律は屋敷に帰っていく。
用事を済ませダッシュで帰宅している間に、すっかり薄暗くなっていた。
門を潜り玄関に直行する。律にとってもう一つの大切な場所で、もう一つの家だ。
「……」
深呼吸をしてから律は玄関扉のドアノブに手を掛けて開けた。ガチャッと音が鳴り、リビングからいい匂いが漂ってくる。
すぅ〜っと匂いを嗅いでしまうと、ぐぅ〜っとお腹の虫が鳴くのだった。
「ただいま帰りました‼︎」
満面の笑みでそう言うと、リビングの扉を開けて葛葉がやって来た。
「おかり〜。もうそろそろご飯できるから、手洗ってきな」
「はい!」
エプロン姿の葛葉に見惚れながらも律は元気よく返事をした。そして言われた通りに洗面所へ向かい手を洗うのだった。
「……鬼丸さん?」
手を洗い終わりリビングに向かう途中で、ふと視界の端で赤黒色の揺れる何かが過った。直ぐに気配で誰なのか気付いた律は、恐る恐る声を掛けた。
「うぅ〜律よ〜。助けてくれぇ」
「お、鬼丸さん……⁉︎」
シクシクと目端に涙を溜めながら、箒で床を掃いている鬼丸に、律は目をギョッとさせ一歩後ずさった。鬼丸が涙目になるのは新鮮だ。
「ど、どうしたんですか⁉︎」
「うぅ……それがのう。葛葉と五十鈴がのう、イジメてきたのじゃ!」
「……あのお二人がですか?」
鬼丸の驚きの言葉に、律は頭を少し傾げてあの二人の顔を思い浮かべた。そして少し考えた結果、
「鬼丸さんが何かしちゃったんじゃないですか……?」
あの二人がいじわるするとは考えられず、また鬼丸が何かやらかしたからによるお仕置きなのでは? という考えに至ったのだ。
「そ、そんなわけないのじゃ‼︎」
すかさず鬼丸が否定しながら詰め寄ってくる。
一歩一歩後ずさっていき、背中が壁にべったりと当たった時だった。
「いいや、律のが正解」
と言う声が二人の間に割って入った。
声のした方を鬼丸と同時に向きながら見てみると、そこには、ニコッと微笑みを浮かべている葛葉が居た。
「鬼丸? 反省してるの?」
「し、してるのじゃ〜」
律に顔を向けてから、ゆっくりと鬼丸の方に顔をやる葛葉。律は焦った口調の鬼丸のことが気になり、ふと鬼丸の横顔を覗いてみると、ダラダラと汗をかき「あ、あは、あはは」と愛想笑いを浮かべていた。
「本当かな? じゃあ律にちょっかい出してないで、早く掃除をしてね?」
「わ、分かったのじゃ〜」
箒の持ち手を両手で持ち、サッサッと掃き始める鬼丸。そんな鬼丸の背後には、腕組みをしながら微笑んで見つめている葛葉が立っている。
そんな二人を目尻に掛けながら、律はリビングの中へ入っていった。
読んで頂きありがとうございます‼︎
あまり顔とか態度には出さないけど、怒ると怖い人って居ますよね〜。
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