二十話 少女の願い近寄る影
家族が居ないからね
「も、もしかしてですけど……あ、あの時か、かかかから居たとかじゃじゃないですすよよね⁉︎」
「はい、何のことですか? しゅき……の話でしょうか?」
顎に指を当てて思案するように顔を上げる五十鈴。
律はそのあからさまに、その時からもう既に居ましたよ、と伝えて来てる五十鈴の行動を見て、脱力したように倒れるのだった。
「もう死にましゅ〜ぅ……」
涙を浮かべながら目を瞑り、両手を胸に置いて静かに息を止めるのだった。
「……律、五十鈴」
そんな律に哀れみの目を向けて、頬をツンツンしている五十鈴と、されるがままの律に、葛葉は再び声をかけた。
二人の想いが同じだというのなら、葛葉は道を踏み外さないだろう。
「二人にお願いしたいな」
機械的に義務を果たす【英雄】ではなく。破滅を忌避し、弱き者やあり方が真っ当な者達を助け邪悪を挫く、悲劇のヒロインなんて存在せず、万人を救う。そんな理想過ぎて目も当てられない、でも誰かが必要とする最高にカッコよくて、最高に強い【英雄】になるため。
【少女は愛に飢えている】
「二人……いや、三人には私と一緒に、お互い支え合って生きていって欲しい。だから、私と一緒に生きて欲しい―――」
―――暗い森、それは怖く恐ろしい。
でもきっと英雄が助けてくれると、幼い頃の自分は信じて疑わなかった。
―――身体が引きづられている、風が吹き葉が擦れている、月光が葉の間から地面を照らす。あまりにも弱々しい光だ。
「今の、俺のよう……だな」
魔族の兵士たちに護衛され、雑に運ばれている。その兵士たちの顔は険しく悔しさに満ちていた。
「……はは、まさか拾ってくれるたぁ思わなかったな」
「キャラはもう良いのか?」
「あぁ、本音を隠してあんな事すんのは、もう二度とごめんだよ」
ドサッと乱暴に置かれ、ふと目の前の光景を見てみると、そこには真っ黒な外套を被った人物が居た。
「長年ご苦労だったな」
「そう思うんだったら、さっさとアンタらの計画を始めたらどうだ?」
「それはまだ早いんだ。覚醒したとはいえ奴はまだまだ未熟」
男が掛けられていた手錠を壊し、足の錘も取り外す。そんな中、目の前の人物は優雅に紅茶をカップに注いでいた。
「じきに奴も目覚める、そこからが計画の始まりだ」
「その間、俺は何をしてたら良いんだ?」
「好きにすれば良い。十五年もずっと働いてくれたからな、国に戻って贅沢三昧するでも良い」
ポットを置いて、カップを手に取り口元に近付け、注いだ紅茶の匂いを楽しみながら、目の前の男にそう言い放つ。
「……一つ聞かせてくれ」
「何だ?」
「どうして俺を、蘇らせた」
「簡単な話だ、あれ程の所業をしておいて簡単に死なせるなんて……この私が許すとでも?」
男――いや、ヴァーンズィン・トイフェルは目の前の人物に睨み付けながら、そう怒りを込めながら言うと、予想外の解答が返ってきたことに驚いた。
「やらせておいてよく言うよ……」
「満更でもなかった風に見えたが?」
「あ? はっ、蟻を殺すのに感情的になってたまるかよ」
ヴァーンのやったことは到底許させることではない、だがそれが命令だったら、抗えない絶対の命令だったとしたら?
どうしようもない、誰も悪くない胸糞エンドにしかならなかったろう。
「だから少しばかりの罪だ。……弱者を殺戮してきた者には、普通の生活は苦痛だと思うがな?」
「どうでも良いさ、あの日に俺ぁアンタに魂を売ったんだからよ。……せめて、良いサキュバスの店は紹介してくれよ?」
「…………お、お前は、女にそんなことを頼むのか⁉︎」
「じゃあこんな性に合わねぇ事すんなよ、魔王様」
ヴァーンの不意打ちの言葉に、飲んでいた紅茶を吹き出し頬を好調させて、睨みながら迫って来る魔王を押し退けて、ヴァーンは立ち上がるのだった。
「まったく、はぁ。……鬼代葛葉、いくら決心をしようと絶望には抗えんぞ」
そう魔王が葛葉達のいる屋敷に目を向けてそう言うと、地面が淡く紫色に発光し出し、光が夜空を照らした。
その後には何も残らず、ただ静寂が戻って来るだけだった。
読んで頂きありがとうございます‼︎
愛に飢えてるならば! 葛葉のことが大好きでしかたない女の子がいるじゃないですか! さぁ緋月と百合展開だ!
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