十八話 愛妻家とその妻
ちっと遅くなりましたね……。
「まったく……葛っちゃんが心配だからってやり過ぎじゃない? んまぁここまで侵入されてる人類側が悪いんだけど……」
何度目かのため息を吐き、緋月は魔族兵達の死体を見やった。
この付近まで来るには前線を突破し、要所の騎士団屯所からやって来る増援を倒して来るしかない。だがそんな芸当をこんな小規模部隊がやってのけるわけがない。
侵入された原因は容易に想像できる。だが敵さんにそんな余裕を与えている自分達も悪いだろう。
「そうじゃな。わしは心配なんじゃ……」
「……愛妻家だねー」
満点の月を見上げながら、二人して最愛の人を思い浮かべた。
「不服かの?」
「いーや。ボクにはあの子の隣に立つ資格なんてないからね」
「……何を言うておる? うぬは強いではないか!」
「強い……そうだね。ボクは実力の話をしてるんじゃないんだよ……強さなんてただの目安さ。ボク以上に強いのなんてゴロゴロ居るよ。ボクはボクが許せないんだ」
緋月の目をまじまじと見て、鬼丸は目を見開いた。こんなにも強い者でも、そのような表情をすることに驚いたのだ。
強さとは絶対的なこと、強さがあれば何でも手に入るのだ、それが強さだった。でも、時代は移り変わっていったのだ、強さが絶対の時代は終わったのだ。
「なら……うぬはなぜ、葛葉にベタベタしている」
「……何でだろうね。守れなかったのに……」
緋月の万感の思いのこもった声を聞いてもなお、鬼丸には緋月の腹の奥が知れなかった。緋月の笑顔にはいつも陰がある。
それが気になっていた。
(……綺麗)
夜空を見上げながら手をゆっくりと月に翳し、葛葉は心の中で無意識のうちに呟いていた。
あの後、結局鬼丸は帰ってこなかった。用事がまだ済んでいないのだろう、少しだけ心配だが鬼丸がそこらの一般人に引けを取るとは思えない。
心配するだけ無駄なのだ。
(結局……ギルドに行けなかった。でも久しぶりにゆっくり出来た……律ともデートできたし)
それが一番の収穫だったと言っても過言では無い。
上げていた顔を俯けてから伸ばしていた手を身に引き寄せて、ギュっと力強く拳を握った。
(魔王軍幹部との戦い、鬼丸との戦い、奴隷商との戦い。どれも苦戦ばかりだった)
ギリギリで仲間の力を借りて勝ってきた。
別にそのことに良し悪しなんあるわけがない、でもどれもこれも、もし負けていたらどうなっていた?
「魔王軍幹部との戦いの時点で、この街には被害が出ていた」
よく緋月が来るまで保ったなと我ながら思う。
「鬼丸とは、街に被害は出たけど死者は出なかった」
なぜLv.1の時にあそこまで戦えたのか、自分ですらわからない。
「奴隷商の時は……助けられなかったなぁ……」
葛葉は語彙を伸ばして言うと、哀愁が漂っていた。あの時目の前で何人も死んだ。
だがそうやって強くなっていったのだ、自分は。
今、葛葉は屍の上に立っている。多いようで多くない屍の上に。
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流石に三日連続は……あるわけないですよ?
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