十三話 葛葉の昔話
掘り下げはまだしませんがね。
ポカポカ陽気に照らされながら、葛葉と律は気が付けばかなり話し込んでいた。団子はすっかり食べ終わっており、二人は足をぷらぷらと振っていた。
「てことがあったんですよー!」
律が主に話をしていて、葛葉はその話を聞いていた。
時々笑ったり、時々反応に困ったり、時々言葉が詰まったりと、律と話しているとついつい色んな反応をしてしまう。
「ぁ……」
「……?」
そんな時だった、律が急に話を止め葛葉の顔をジーッと見つめて来たのだ。葛葉は、律の顔を見ながら小首を傾げ、律同様に律の顔を見るのだった。
「どうかした?」
「……あ、いえ。ただ、葛葉さんのお話は聞いたことないなぁと」
「私の話?」
「はい! 葛葉さんの昔話が聞きたいです!」
そういうと途端に、顔を思っきし葛葉の顔に寄せて来て、ふんすと興奮気味にそう言って来た。
葛葉は少し気圧され、前屈みの律とは反対に後ろに身体を反らせていた。
「と、とりあえず元に戻ってくれる?」
「あ、すいません……」
目の前に葛葉の双丘があることに気付いた律が、少し恥ずかしそうに葛葉に迫っていた体勢を元通りにした。
「……私の昔の話か」
「気になります!」
葛葉の呟きに、律がワクワクと言わんばかりに身体をくねくねと動かし、脚をバタつかせる。
そんなにか……と頬を引き攣らせ、葛葉は深く息を吐いてから何から話そうかと考え込んだ。
別に自分の話を人に話したところで、面白くもない。『葛葉』と葛葉の両方の記憶に違いは殆どない。男か女かの違いのみだった。
「別に大したことないよ?」
「いえいえ、ただお話が聞きたいんです!」
「そ、そう?」
そう。大したことない、凡人によるありふれた生活だった。この世界に来たことで、葛葉は凡人では無くなった。
律が憧れる『鬼代葛葉』という人物とは全く違う。凡人の生活を、葛葉は長々と話し始めるのだった―――。
―――それから数時間後、一通り話終わり、二人はすっかり茜色の空の下を肩を並べて歩いていた。
「……あ、あのさ。律? いつまで泣いてるの?」
「うっ、うぅ……だっでぇ。葛葉さんは……この世界に来る前から……そんな辛い日々を……うぅ〜」
目からポロポロと涙をこぼし、律は言葉を詰まらせながらも喋る。何処にそんなに泣く要素があったのか、葛葉には到底わからないが、多分きっと……。
「―――葛葉様?」
「ん? あ、五十鈴……⁉︎」
視線を律の横顔から外して、前を向こうとした時だった。すぐ横から葛葉の名を呼ぶ、聞き覚えのある声が聞こえたのだ。
ふとみてみると、そこには買い物帰りだろうか、手提げバックを持った五十鈴が立っていた。
読んで頂きありがとうございます‼︎
葛葉の過去話は……多分いつか、ここだ! って時に書くと思います。
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