四話 いつもの朝
今日は多めです!
―――妙に暑苦しい感覚を感じながら、葛葉は目を覚ました。むくりと起き上がり、自分の布団に目を向けて見れば、葛葉の腕に抱き着き眠っている緋月が居た。
いつも通りの光景だ。だが、反対側の光景は全くいつも通りじゃ無かった。
「……律?」
スゥスゥと幸せそうに眠っている律がいたのだ。
「あ、あー……なんか思い出して来た……」
緋月はいつも勝手に入ってくるが、律は絶対に入ってこない。だからおかしいと思ったが、そう言えばなんか誘った気がする。
「ま、いいか。…………で、さり気なく胸を触るのやめて下さい、緋月さん」
「……」
「ひーづーきーさーん?」
「あ、痛だ⁉︎ ちょ、ちょっと待って! い、痛い痛い‼︎」
一度呼んでも狸寝入りをする緋月に、葛葉は緋月の大きなアホ毛を掴んで、思いっきり引っ張った。
「う、うぅ〜痛かった……」
「反省の色が全く無いですからね」
アホ毛を抑えて、涙目で睨んでくる緋月に、葛葉はため息を吐きながら苦言を呈する。
が、緋月は反省なぞせずに、スタスタと椅子へ歩いて行って勢いよく座った。くるくると椅子は回転して、葛葉の方に背もたれが向いた。そして緋月は背もたれに手を回して、葛葉のことを見てくる。
「な、なんですか?」
「君も気付いてはいない……か。まぁラノベ主人公あるあるだね〜」
「本当になんですか?」
途端に意味わからないことを言い始める緋月に、葛葉は頰を掻きながら再度同じことを呟いた。
「まぁいいさ。……う〜ん、今日は何か予定があるかい?」
「いえ、別に」
「無いんだ……。んまぁ、今日は特訓はないから葛っちゃんの好きなように過ごしなよ」
「そうするに決まってます」
特訓がない日は大体暇だが、今日はやるべきこと……というほどでもない用事があるのだ。
そんなに多くはないが。
「ま、外に行くんだったら、りっちゃんも連れてけば?」
「律もですか?」
緋月が、幸せそうな寝顔を浮かべる律に指を刺し、葛葉は律へ目を向けた。
「最近、一緒にいられてなかったろう?」
「まぁ、はい。誘拐されてましたからね」
二日前の奴隷商騒動にて、葛葉は奴隷商が雇った傭兵のリーダーに攫われたのだ。その後なんやかんやあって、そのリーダーを倒して、騒動が鎮まったのだ。
律とはその時は別の場所に居たため、一緒には戦えなかった。
「でも……律には関係がないことなんですが……」
「何言ってるのさ! 一緒に居るだけで楽しい事もあるんだよ!」
今日の用事は二日前関連なわけで、律には関係がない。奴隷の子供達とも会った事ないし、ルプスにも会った事はない。正直着いて来ても、律にとってはちんぷんかんぷんなだけだ。
「でも、律が決める事なので……」
「ふふん、ボクには見えるよ〜、この後りっちゃんと葛っちゃんが並んで歩いてる姿がね!」
(なーに言ってるんだこの人)
両手でダブルピースを作って開閉を繰り返す緋月に、葛葉はジトーっと呆れたような目で見るのだった―――。
読んで頂きありがとうございます‼︎
緋月には何が見えているんですかねー。
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