十二話 師としての最後の教え
文字数を統一したいんですけどね。
――それから三日が過ぎた。
ギルドの一室、葛葉はベッドに寝転がりながら本を読んでいた。この世界には勿論スマホなんて物は無い。
だから唯一の娯楽である本を読むのが葛葉の楽しみになっている。今日はクエストを二個も受けてしまったからかなり疲れた。
「ふぁ〜眠い……」
うつ伏せから仰向けの状態になり、白色の天井を見て欠伸をし呟く。完全に葛葉のリラックス空間となっている。今では前世の自室並みに居心地がいい。
ウトウトし始めた時だった、コンコンと扉がノックされる音が部屋に響き、半起半寝の状態から覚醒する。
「……どうぞ〜」
目を擦り、ノックをした相手に入って良いことを伝えると、ガチャリと扉が開かれる。
ノックした相手――ラグスはベッドの上にいる葛葉を見つけると少し頭を下げた。
「……何してんの?」
「……あ、姐さん。話があります」
「何さ?」
ラグスの改まった言葉遣いに葛葉は訝しむ。何も変化はないラグス。酔ってたり寄生虫に脳を犯されてたり、変なもんでも食ったかと疑うが何も変哲な事はない。
いや、ちょっとだけ変わってる。それはラグスの目だ。何かを、遠くて近い、近くて遠い、そんな何かを見ている目だ。
「俺は……旅に出ます」
「………………えっ?」
「俺は旅に出ます。短い間でしたが、師として十分過ぎる事を学べました! 今までありがとうございました‼︎」
そう言うとラグスは綺麗な姿勢で頭を下げる。
が、言われた当の本人である葛葉は、まるで時が止まったような感覚と水の中で音を聞いているような感覚がしていた。
「な、唐突な事言って……な、何言ってんだよ? きゅ、急にどうしたんだよ?」
葛葉は言葉を詰まらせながら、辿々しく言葉を発する。トントン拍子で進めていくラグスを進ませずにするように質問を重ねる。
「俺は自覚したんです。姐さんの隣に、今のまま居ては駄目だと」
「な、何が駄目なんだよ。私の隣なんて誰でも立てるし、居られるだろ?」
「いえ、立てませんよ。誰も彼も、姐さんが言っても他の人達は立てないってそう言います」
何か、確信があるように、当たり前のことを言うように。何故自分は理解出来ていないのか、何故葛葉が戸惑っているのかわからないって顔で言う。
「な……んの根拠があって言えんだよ。私の隣なんて安いだろ?」
「……安くありませんよ。お金よりも、魔石よりも水晶よりも宝石よりも価値があって、高いんです。輝いていて、手の届かない高い所にあって……」
「どういう意味だよ……。こんな私に価値があるなんて」
葛葉は顔をうつ伏せ自分で言って気付いた。そうだ、価値なんてない、最初から専ら何もない。
何で自分に価値があるなんて言えるんだ? 価値があったら何も出来ないなんて無い。あの時だって何か出来た、あの時だって、あの時もあの時も。何か出来たはずだ。
なのに出来なかった……。出来なかったんだ。目の前いっぱいに広がる黒い煙と赤い炎、熱風と風圧、爆風と爆発の衝撃波。後一秒有れば助けれた。
「……姐さん。何で、姐さんはそう自分を卑下するんですか?」
「卑……下?」
「そうですよ。自分に価値がないだとか、価値なんてある訳ないだとか、そうじゃないでしょう? 人に価値なんて元から無いんですから。他人に決められるのが価値? 自分で決めるのが価値? 違いますよ!」
葛葉の心の渦は、根強く葛葉を蝕んでいる。何も出来なかった自分が憎くてしょうがなくて、恨めしくてしょうがなくて、殺したくてしょうがない。
葛葉は自分が自分自身が大嫌いだ。
「——だから! 違うじゃ無いですか!」
ラグスはそう叫び、葛葉へとズカズカと近づき、葛葉の俯いていた顔を上げる。
「……ラ、グス?」
「姐さんの過去に何があったかは知りません! ですがそれをいつまでも引き摺って、自分に価値がないだとか、自分は何も出来なくて当然みたいな顔をしないで下さいよ!」
「――ッ!」
今更気付いた。葛葉はずっとそんな顔をしていた事に。今更ながらに気付いた。
あの日から葛葉は心が壊れているのだ。修復できない、どうしようもできない、出来ない出来ない出来ない。壊れて、壊れて、粉々に壊れている、
「姐さんだって、誰かを救ったこと、あるでしょ‼︎」
でもそれは間違いじゃ無いか。
心が治ってゆく、優しく温かく柔らかく……。
出来たじゃ無いか。あの日、葛葉が死んだ理由の一つでもあるあの日の事。何故、どうしてあんな行動ができたのか……。
価値とか、出来る出来ないとかじゃ無いんだ。自分はそう言って屁理屈並べて今まで逃げてただけだろ! 至らない自分には逃げるが、最善だったのだろう。
でも今は違う。それは最善では悪手だ。
「……ありがとうな」
「……――ハッ! すいませんすいません!」
自傷から戻った葛葉が感謝を言うと、ラグスは行き過ぎた行動に気付いた。側から見たら恋愛アニメとか漫画とかの顎クイだ。
「いや、お前のおかげだ」
「すいませんすいませんすいません……えっ?」
ずっと床に頭を打ち付け、何度も謝るラグスが葛葉の意味深な発言に頭を打ち付ける行為をやめ、はてな顔する。
「本当に、お前からは教わってばっかだな」
「そんな!」
一応師匠なのに、弟子に何もかもを教わっているのだから。師匠が聞いて呆れる。
「いや、そうなんだよ。……旅に出るんだろ?」
「……は、はい」
「一応師匠としての最後の教えを言う」
「は、はい‼︎」
正座をし直し、葛葉耳を澄ませて雑音をかき分けて葛葉の言葉を聞こうとする。葛葉は深呼吸をして最初で最後の教えを言う。
「強くなれ」
読んでいただき、ありがとうございます!
三章も終わりが近づき、総合評価ポイントがもう少しで100にまります!
評価して下さって本当にありがとうございます‼︎
ご期待に添えるように、面白い話を書けるように精進致しますので! どうかこれからも読んで頂けたら幸いです。