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二話 乗り越える壁

読もうと思っていただき、ありがとうございます!

誤字脱字があったら何でも言っちゃって下さい!

黒い渦から、ラグスの手が引き抜かれ現れたのは、長大な刀だった。昔にとある人物から貰った刀だ。自分には合わないため、今まで使ってこなかったが、背に腹は変えられない。刀身だけで三メートルはある刀を、ラグスは軽々扱う。振るうだけで取り巻きの首が飛び、木々が一刀両断され、ズシンと地響きを立てて崩れ落ちる。


「行くぞ‼︎」

『コォオイ‼︎ 人間‼︎』


醜い顔に醜い笑みを浮かべ、聞く者全てを怯ませるような獣の咆哮を、天高く叫ぶ。


(勝負はこの一回! この一瞬で決まる‼︎)


レジェンドとラグスの距離が縮む。大鉈が振り上げられ、大太刀が敵の首を狙う。そして鮮血が地面を染めた。果たして、倒れたのは、


「うっ、くっ!」


ラグスだった。


『ガハハハ‼︎ 誇レ人間! 貴様ハ、Lvノ壁ヲ越エ我二深手ヲ与エタ‼︎』


首を狙った大太刀が与えたのは、腹部から肩に掛けて深く袈裟斬りしただけだった。腕一本斬られても平気な顔をするレジェンドだ、袈裟斬りなんてそうそう効かないだろう。内臓にまで届いていれば、話は違うが。


『敬意ヲ込メテ、ソノ首ヲ一太刀デ斬ッテヤロウ!』


大鉈を振り上げる。ラグスは今度こそ死ぬ。そう思うと、頭の中で今までの人生が流れてくる。走馬灯という物だろうか。


(すいません師匠。すいません葉加瀬さん。ごめん母さん。……ごめんなぁスピカ)


大鉈がラグスの首を刎ねる。と思われた時だった。甲高い音が森に鳴り響き、大鉈が真っ二つに折れる。


「ぐっ……」

「……なっ⁉︎」


ラグスは自分の目を疑った。守るべき対象であった少女――葛葉が、刀で大鉈の一撃を受け止めたのだから。


「いっ――――――」


 受け止め、大鉈の刃を折った少女は天高く、


「たぁぁぁぁぁぁ⁉︎」


 大絶叫を上げた。

 



ちょ、まっ⁉︎ えぇ、何この手の痺れ⁉︎ 葛葉は己の判断を大いに恨んだ。

茂みに身を隠し、ただひたすらラグスの戦闘を眺めているだけだった。そんな葛葉が何故出て来たか、それは至極簡単な事、複合MADやアニメのMADを見ると何故かとやる気が出てしまう。それは男の子なら分かるだろう。そして、ラグスの戦いは正に、アニメさながらだった。

自分の背より倍以上ある敵、周りには雑兵、孤軍奮闘。男の子の、永久不滅の厨二心をくすぐられ、いてもたってもいられず、出てきてしまったのだ。何ともまぁ命知らずなのか、自分の命はかっこいいの次なのか、それとも馬鹿なのか、そんな疑問が自分でも浮かぶ。


「こん……のぉおおおおお‼︎」


火事場の馬鹿力か、それとも秘められたチート能力か。否、全て否である。

葛葉の脳はこの状況下でなお、自分が『英雄』の如き力で、敵を圧倒するという妄想をしていたのだ。

妄想が現実になろうとしていた。が、現実は理不尽で、無情で、無慈悲だ。そんな浅ましい妄想など、目の前の過酷な運命の前では、塵芥にもならない―――。




だが、ラグスは目を見開いた。自分が見ている目前の光景は、正に自分の憧憬の存在である『英雄』と酷似していた。


「おりゃあぁぁぁぁぁ‼︎」


咆哮とは言えない咆哮を上げる少女に、ラグスは幻視したのだ。この世界の住人全員が、尊敬し、敬い、神と同等の扱いをする、この世界のヒーロー、非凡な事を成し遂げた『女傑』を。

皆が憧れる『英雄』は、戦闘時、普段纏う雰囲気が変わり、白光りの軌跡を残すと。ゴブリン・レジェンドが体制を崩し、華奢な上に身長が低い葛葉の体が、レジェンドの視界から外れる。

葛葉はそんなことを露知らず、小さく屈み込み、刀を腰の高さに構え、腰を限界まで捻る。小さい身体、いや腕ではこのレジェンドの四肢を切断することは愚か、指すら切れないだろう。

だが、葛葉は遠心力を用いた横薙ぎの一刀を放った。その一刀はレジェンドの両足を切断させた。

レジェンドもただやられるわけではない。レジェンドは左手で土を掴み、そのまま投げ付けてきた。

人間がそんなことしたら何やってんだで、済まされるが。この戦いにおいては済まされない。土の塊一つ一つが、人間の肉を抉るには事足りる大きさなのだ、そんな物を食らえば葛葉は間違いなく、死ぬ。

ラグスは、痛む体を無理やり動かし、歯を食いしばって一歩を踏み出した。間一髪、ラグスは体当たりを葛葉の体に食らわせ、二人もろとも倒れ込む。幸い、葛葉の身体に傷はない。

が、地面にポタポタっと血が滴り落ちる。それは、葛葉を庇ったラグスの物だった。

葛葉が下で倒れ、ラグスが葛葉に覆い被さる状態だ。


「な……んで?」

「何でも……かんでもねぇでしょ。誰かを……助けるのに……理由、要りますか?」


ラグスの言葉に、葛葉は、はっ! とする。


『グッ、ゥゥゥウ。オノレ、ミクビッテイタカ』


葛葉とラグスのやり取りに横から入ってくるのは、全快したレジェンド。自分の敗因を理解して、次こそは本気で来るつもりなのが、ラグスには感じ取れた。


『次コソハ、必ズ一撃デ葬ッテヤロウ』


レジェンドは適当に、そこら辺に生えていた木を根こそぎとり、それを武器代わりにする。


「……チッ、異世界に来ても直ぐ死ぬのか」


 と葛葉は、ラグスにとっては意味不明な事を呟いた。


(……誰かを守るために、冒険者になったんじゃないのかよ)


何も出来ない自分に苛立ってくる。

Lv.4になったとしても結局何も変わらなかった。変わったというなら、周りから期待される事くらいだ。それなのに、その期待に応えてやれない。そんな自分に心の底から苛立ってくる。

幼い頃ラグスは冒険者になって、沢山の人を助けるんだ! とほざいていた。なのにこの体たらく。自然と笑みが出てくる。自嘲という笑みが。


「――手ぇどけろ」

「…………えっ?」


手首を叩かれ、纏う雰囲気を変えた葛葉が、ラグスを見てくる。その顔に、表情に、目に、緊張が走った。言われた通り手を退けると、葛葉はゆっくりと立ち上がり、刀を構える。


『……娘、気デモ狂ッタカ? 次ハ我モ油断ハセヌ、確実ニ殺スゾ』


前に立ちはだかる葛葉を睥睨し、レジェンドは葛葉の正気を疑うが。葛葉は意に返さない。


『……ナラバ、今ココデ死ネッ――‼︎』


武器代わりの木が、葛葉を木端微塵にせんとする。が、バギッ‼︎ と言う音共に木が切断される。と同時に、レジェンドに殺気が迫った。

咄嗟に蹴りを前に繰り出すレジェンド。そして葛葉はもろにその蹴りを食らった。

威力は凄まじく、人間が飛んでいくスピードではない。投石器で飛ばされる岩の如く、葛葉は猛スピードで吹き飛ばされ、木に背中を強打した。

肺の中の空気が全て出され、全身から痛みがやってくる。痛みに気絶しそうになったが、葛葉は踏み留まり、木からずれ落ちる。

流石に死んだ。そうレジェンドは思ったが、目の前の光景を見て、目を疑った。背中を木に預けてるとは言え、葛葉は立っていたのだった。顔を俯かせ、頭から血をボタボタ流し、震える足で。


『バ、馬鹿ナァ‼︎』


その光景にレジェンドは激昂した。冒険者でもない小娘が、背中を強打し、ほぼ全身骨折の状態で立ち上がるなど、あってはならない。

もし、冒険者だったとしても耐えれる訳がない。

ラグスの心境も同じだった、葛葉の姿に目を疑った。見た事ない光景だ。自分なら倒れて気絶してる。なのに、冒険者でもない少女立っているのだから。


「……見ろ……これが……『英雄』だ。……倒れない……は…一番………かっこいいんだから」


荒い息を吐きながら、葛葉はそう言い放った。

——よく思い出せない昔の記憶。

靄が掛かり、細部までは思い出せない。


『わぁ〜!』

『ん〜、葛葉はもうこいうアニメにハマったかぁ』


苦笑しながら呟くのは、もう既に亡くなっている葛葉の父親だ。


『うん! アンパンマンとかドラえもんとは違った面白さがあるよ!』

『ある意味神童かもな……』


幼児でありながら、バリバリの深夜アニメを見る葛葉。そんな葛葉をどうこうするでもなく、父は只々見守り続けた。

そんな会話から一週間。


『わぁ〜かっけぇ』

『だな〜』

『ねぇねぇ、こんなカッコいい人って本当にいるの?』

『……皆んなは居ないって言うが、俺はいると思うなぁ』

『何でー?』

『んー俺は知ってるからな』


そう言い、父は遠い目をした。何かを思い出すように、何かを懐かしく思うように……。




「―――よく頑張ったねッ!」


透き通る声が森中に響き、大地をかち割ったような衝撃に足がふらつく、残っていた最後の力を振り絞り。俯いていた顔を上げる。と、そこには小さなクレーターが出来ており、その中心地に声の主と思わられる少女がいた。


「もう大丈夫だよ! このボクが来たからには、どんな敵も泣きながら逃げて――—って⁉︎ ラグス⁉︎ 君、大丈夫かい!?」


綺麗な二度見をし、ラグスに駆け寄る少女。場違いと言う言葉がこんなに合う人が居るとは。

読んでいただき、ありがとうございます‼︎

なんか、普通に主人公が強敵と渡り合ってますね〜。あれっ!? 成り上がりは!?


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