三十五話 詠唱
火傷するほどアツイ展開!
「わしが要らぬおせっかいをしてしもうたみたいじゃが、安心するが良いのじゃ。彼奴め、まだまだ元気みたいじゃからのう……」
鬼丸の視線の先、砂埃の中から姿を現すヴァーンを葛葉は見た。傷で全身ボロボロだが、戦う意志はまだあるようだった。
「……っ」
「そう固くなるで無い。戦うのに緊張なぞしておったら、足を掬われかねないぞ?」
ヴァーンの姿を見て、表情が強張り無意識に手の力が強まって、身構える葛葉に鬼丸は笑みを含めながら指摘した。
「戦いは楽しむもんじゃぞ!」
「……うん。そうだね……ふっ、やっぱり鬼丸はバーサーカーだよ」
鬼丸の親指を立てて向けてくる笑顔につられ、葛葉もクスッと微笑んでしまう。そして鬼丸の発言に、葛葉は前にも言ったことを、また言うのだった。
(はぁ〜。……頑張ろう)
葛葉は鬼丸から視線を外して、身体をヴァーンの居る前の方へやってから、深く深く深呼吸をして、ナイフを構えた。
次はもう緊張もしない。表情も強張らないし、無意識に手の力を強めたりもしない。
今は楽しもう。鬼丸の助言通りに、楽しんで戦おう。怒りも憎しみも今は抑え込もう。まずは勝つことが最優先なのだから。
「『紅焔鎧』」
淡き焔が熱を放出する。身体に巻き付く焔は葛葉の感情を伴って燃えているかのようだ。ヴァーンが近付いて来るのと同様に、葛葉も歩き出す。だがそれは、いつもとはちょっと違った。
「『―――淡き焔よ』」
歩いている最中、葛葉は詠唱をし始めたのだ。
「詠唱⁉︎」
「まさか、葛っちゃん新しい魔法を……?」
カナデが驚き、緋月は勘繰る。確かに葛葉の魔法『紅焔鎧』は無詠唱の身体強化の付与魔法だ。
それなのに詠唱をすると言うことは新しい魔法を入手したのもあり得るが、葛葉のこの詠唱は違った。
「―――あぁ? 詠唱だぁ? 舐めたことしてくれんじゃねぇかよぉ……!」
スタスタと真っ直ぐ歩いてくる葛葉を見ながら、ヴァーンは舌打ちをしながら葛葉を睨め付ける。
堂々と詠唱して向かってくる姿は、さもヴァーンのことを見下しているかのようだった。
「『身を守る灼熱の大気を纏い』」
「んなこたぁさせるかよぉ‼︎」
徐々に魔力が増していく葛葉に、ヴァーンも負けじと魔法を行使し始める。
「万物を切り裂け! 『オールズシュナイデン』」
手に集まる魔力が魔法となって、不可視の鋭利な斬撃が葛葉へ飛んでいき、ザシュっと葛葉の頬に一筋の切り傷が付いた。
「『敵を焼き尽くす―――』」
だが葛葉は気に留めずに、葛葉の詠唱は終わりに差し掛かる。そしてそれを阻止するべく、ヴァーンは不可視の斬撃の数を増やした。
不可視の斬撃が葛葉に迫るが、葛葉は焦ることなく立ち止まり、手を突き出して最後の一節を唱えた。
「『日輪の冠を―――っ‼︎』」
読んで頂きありがとうございます‼︎
新しい魔法を戦場で使うって最高にかっこいいですよね! 戦場で唱えるってだけでもかっこいいのに!
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