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十一話 覚悟を決めて

起承転結守れてなくね?

日が沈み暗闇が世界を覆い世界が静まり返る。光は点々とし、かつての日本のような夜は存在しない。人類はまだ、夜を克服していないのだ。


「……まぁ座りなよ」

「いえ。話があるのは俺です」

「全く、硬いな〜ラグスは」


魔石灯の淡い光だけがギルド長室を照らす。そんな部屋に男女二人が居た。男女――ラグスと緋月は何かを話し始めようとしていた。

緋月はワインの入ったグラスを弱く揺らしながら、綺麗な姿勢で立っているラグスに声を掛ける。座るように促すが、ラグスは頑なに座らない。


「……で、話って?」

「俺は旅に出ます」

「…………唐突だね。どうしてまた?」


ラグスの唐突な発言に一瞬だけ驚いた緋月は、そう思い至った理由を聞く。


「俺は思ったんです。このまんまでいいのかって、勇者になりたい【英雄】になりたいって。……言うのは簡単です。でも、全然叶うことじゃない」


ラグスは拳を強く握り締め、自分のことを自嘲を含めながら語り始める。そんなラグスの――いや、弟子の言葉に緋月はいつものおちゃらけた雰囲気を消し、信頼に足る師匠となる。


「ラグスは、【英雄】になりたいんだよね? ……もう一度理由を聞くよ、何故【英雄】になりたいんだい?」


それはラグスが弟子になるときに聞いた質問だった。あの時のラグスは【英雄】になりたいとそう即答した。


「俺は……俺の今までの【英雄】になる理由は、強くなって家族を守れるようになるっていう、エゴだったんです」

「それは果たしてエゴというのかい?」

「エゴなんです。物語に出てくる【英雄】は自分でも自分の家族のためでも無い、それを含めた全てを助ける。そんな最高にかっこいい人達なんです」

「それが君の理想の英雄象か」

「はい。そして、俺は思ったんです。このままじゃ駄目だって」


ラグスは遠くを見ているような、でもそう遠くない未来を見ているような目で夜空を見上げる。


「あの人が、あの人こそが【英雄】なんだって」

「……葛葉ちゃんか」


ラグスの憧れの【英雄】とは葛葉だ。勿論ずっとでは無い。葛葉の言葉を、戦う背中を、葛葉に教えを乞うた時から、ラグスの英雄像とは葛葉へと変わったのだ。


「あの人が【英雄】なら、俺はあの人の隣には立てません」

「……それこそエゴだろう? 隣に誰が立つかはボク達他人が決めるんじゃない、あの娘が決めるんだ」

「分かってます。でも、俺はあの人の隣には立てません」

「……意志は堅いみたいだね」


ラグスの変わらない意志に、想いに、その先を見ているその目に、緋月は苦笑を浮かべ自分にはどうする事も出来ないみたいだ、と諦めて思う。


「だから、俺は旅に出るんです」


諦めに入っていた緋月へのトドメはその一言だった。


「そうか。分かった、弟子が言うんだ。師匠といえど弟子の決めたことを否定するのはおかしいか。……分かった」

「師匠……」


ラグスの旅に出るのを認め。緋月は、ボクではもう止める事は出来ない、と可能性すらないこの話し合いで、ラグスの言葉を否定する意味はないとそう思い知った。


「ラグス、強くなって。必ず帰ってくるんだよ」

「……はい!」

「ボクも全面的に協力しよう、まずはどこに行く気だい?」


これが緋月に出来る最後の師匠としてのサポートだ。


「王都に行こうかと」

「王都か……斡旋くらいは出来るか」

「師匠?」

「いや、何でもない。すまないが三日だけくれないかい?」

「いいですよ?」


手を合わせラグスに少しだけ頭を下げ頼む緋月。どう早く準備をしようにも最低でも三日は掛かるのだ。


「ありがとう。それじゃ、明日の朝一番から準備を始めるようにするよ」

「ありがとうございます‼︎」


ラグスは深々と頭を下げると、やる気満々な顔でギルド長室を後にした。


「やれやれ、男の子はこうも突飛なことを直ぐに行動に起こしちゃうんだから」


緋月は再びベランダに出て、グラスに口を付けワインを飲む。やや強いアルコールが喉を焼く感覚とワイン自体の味を、味わいながら月を見上げた。

読んでいただき、ありがとうございます!

三章も後ちょっとで終わりです。第一部の終わりは近いですね。

ちゃんと第二部第三部までありますよ!

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