二十九話 覚悟の末に
はい! 有言実行です‼︎
「……」
葛葉のキッと鋭い視線に、男は乾笑いとともにそう言った。葛葉は男の言葉に答えることなく、ただスタスタとゆっくりと近付いていくだけだった。
そして次の瞬間、男が切り掛かってくるのを、葛葉はとある方法で防いだ。
「―――っ⁉︎」
男が、葛葉の首を刎ねようとした瞬間に、葛葉の足下が爆発し煙が上がってのだ。
殺気が感じられないため、先程までのカナデとの戦闘とは全く違う状態で、男は葛葉の居場所を探る。
だが煙によって視界が不良なため、どうやっても目視での発見は難しい。他に頼れるのは聴覚なのだが……先程の爆発の音のせいか、若干だが周りの音があまり聞こえないのだ。
目も耳も使えないとなると、もうどうすることもできない。嗅覚で探れるわけがないし、味覚なんてもってのほかで、触覚に関しては使えなくはないが、無防備になるためあまり得策ではない。
「……チッ、クソが」
これまでに自分が、こんなにも不利な状態になるとは、男は予想だにもしていなかった―――。
―――隣で煙が立ち込めるのを尻目に、葛葉は切り傷だらけのカナデを介抱をしていた。
「大丈夫?」
「は、はい。これくらい平気です!」
カナデは、そう心配させないようにと微笑んだ。
葛葉はそんなカナデの微笑みを見て唇を噛んだ。自分のが冒険者歴は長いはずなのに、まだ成り立ての、この子にこんな酷なことをさせてしまった自分に怒りが募っていく。
だがもう自己嫌悪や悩むことはしない……。そんなのは皆の憧れの象徴がすることではない。今は、敵を殺すだけだ。
「ここで待ってて……」
「……英雄様」
「まかせて」
奴隷の子達がいる部屋の扉の前でカナデを休ませて、葛葉は振り返りアイツを殺そうと歩き出したと同時。カナデの心配そうな声に、葛葉は優しく朗らかに応えた。
(……もうどうでもいい。自分が自分で無くなるなんて、自分以外が死ぬことの方がよっぽど大切だ)
スタスタと葛葉は煙の元へ向かっていく。
(平和ボケなんてしてる場合じゃない……。この世界では明日を生きることすら分からないのに、何を今更人殺しを恐れるの……)
つくづく呆れる。と葛葉はついつい笑みが漏れてしまった。
(ただの人殺しは罪だ……。でも私の殺しには大義があるんだ、人を救う大義が! 人を救い人を殺す……きっと、私はこれから矛盾ばかりを背負って生きていく。それが私の選んだ道……私の運命だと思うから)
スタスタと歩く音が止まり、煙が次第に晴れていく。まるで煙が葛葉を恐れているかのように。人は覚悟一つでこれほどまでに変わるだろうか。
「だから、私はあなたを……殺す」
「……ひ、ひひっ! ならやってみろよぉなぁ―――ッ‼︎」
葛葉の殺気のこもった声と目に、男はそれ以上の狂気を以て相対する。
【英雄】鬼代葛葉と、最狂の傭兵――ヴァーンズィン・トイフェルの戦いが始まるのだった。
読んで頂きありがとうございます‼︎
さて、無事に七時前に投稿することができました! まさしく有言実行ですね! え、前に二日も有言実行できなかったくせに何言ってるんだ? って。
はい、その節は申し訳ございませんでした。
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