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二十五話 誰の為に……

ふぅ、危ない危ない

(……私は、何を勘違いしてたんだろ……)


きっと、緋月達との生活が楽しかったからだ。だから、感覚が麻痺っていたのだろう。この世界に理不尽の及ばないところはないことを。


「……こんな世界で、生き抜く覚悟を英雄様は持っていない。だから、弱いんです」


ルプスの言い分に、葛葉は何も言えなかった。そうだ覚悟をしてなかったんだ、この理不尽で世知辛い世界では色々な覚悟が必要になるんだ。

今もあの男と激しい戦闘をしているカナデは、きっと葛葉や他の誰よりも強い覚悟を持って戦っているんだ。

だから、あんなに強いんだ。残酷な真実を知ってもなお、カナデは戦い続けている……いや、あの子にとってはそんなことはどうでもいいのだろう。

なら、自分は何をやっているんだろうか。


「……」


ふと、目をやった。

リリシヤが既に息を引き取ったリユルの手を優しく握って、大粒の涙を流して嗚咽しながら泣いている。

他の子達もみんな、大切な仲間……家族だったのだろう。奴隷狩りに遭い、本当の肉親を失った子達が、同じ境遇の子達と仲良くなるのは必然だろう。味方もいない牢獄の中なのだから。


(【英雄】……ってなんなの。私以外でも良かったのに、なんで……)


自分に課された英雄という重荷。誰も守れなかった、救えなかった英雄は、再び混迷の渦へと飲み込まれていく。


(……この【英雄】は、一体何のためにあるの……?)


何のためにこの称号を得たのか。答えなどあるはずが……。

いや、答えはいくらでもあった。今も目の前にある。この称号はその為のものだろう。


(……そうだ、思い出した。やらなきゃいけない事を)


憧れたはずだろう、夢に見たはずだろう、例えそれが別の自分であっても―――‼︎


「思い出したことがあります」

「……?」


俯いて呟き始める葛葉にルプスは困惑した。膝をついて絶望していたはずの【英雄】は立ち上がったのだ。……だがそれは不完全な立ち上がりだった。


「何のための【英雄】なのか、何のために私はこの称号を得たのか……それを思い出しました」

「……っ」


葛葉はバッと顔を上げた。その顔は覚悟が決まったと言った顔ではなく、長年の苦悩が晴れたかのような顔をだった。


「泣いてる子のために、理不尽に打ちのめされている人々のために……そして私の憧れのために……ですが」


葛葉はそう言いってルプス達に背中を向けた。葛葉の手に光が収束していき、物体の形を作っていく。やがて光が霧散して、葛葉の手にはナイフが握られていた。


「今は……君たち皆んなのために――‼︎」


葛葉に視線が集まった。

その視線に籠る思いは、復讐だとか恨みだとかではなく、憧れの眼差しだった。

葛葉は歩いていく、今もこの部屋の外で行われている戦いの下へ。

今は奴隷の、この子達だけの【英雄】になろう。


(これで最後にしよう……皆んなの憧れに成れる英雄になるために……)


葛葉の身体は淡い焔に包まれる。猛々しく燃える焔は、葛葉の決意の表れにも見えた。

読んで頂きありがとうございます‼︎

少し今日は遅れましたが、無事投稿できました! 実のところ今日は普通に投稿するのを忘れそうになっちゃんいまして……。ですが無事投稿できてよかったです!

面白いと思って頂けたら、ブックマークと評価をお願いします‼︎

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