二十三話 救われる英雄と、救えない英雄
すいません!
「―――【英雄】様ッ‼︎」
歯を食いしばり、防ぎれない攻撃に葛葉が屈しようとした時、そう葛葉を呼ぶ声が反響して聞こえてきた。瞬間、何の前触れもなく男の姿が、目の前から掻き消えたのだ。
「無事ですか⁉︎」
「カナデちゃん……?」
男が消えた場所にはカナデが居り、葛葉のことを心配そうに見つめてきていた。そんなカナデに、葛葉は力無く彼女の名前を呟いた。
「まぁたお前かよぉ……。たっくよぉ、気味悪りなぁ!」
葛葉達から大体10メートル程離れたところで、男は顔を歪めて狂った笑い声を上げる。
しゃがみ込んでいた二人は揃って立ち上がった。カナデは剣を構えて、葛葉はナイフを構えようとして、カナデに止められた。
「【英雄】様は、あの子達を」
「……そ、そんな! それだとカナデちゃんが、危なくなる……」
Lv.2よりも遥かに強い相手だ。Lv.1のカナデが善戦出来るかも怪しい。
それなのに、あの男を任せて子供達を逃すなど、救える命を見殺しにしているようなものだ。
「忘れちゃいましたか? 私のスキルを」
そう言われた瞬間、葛葉は思いだした。カナデのスキルは、自分と対照を入れ替えるスキル。
ほぼ不義遊戯となんら変わんないのだ。
「私のスキルなら……多分、数分くらいです! 【英雄】様はその時間で、あの子達を!」
「数分じゃ……」
「大丈夫ですよ!」
粘る葛葉、カナデも同じく粘る。
だが時間は限られている。不意打ちの初撃を受けた子供達は五人が即死、リユルが瀕死の重傷を負った。リユルは今すぐ回復魔法か、万能薬があれば治せるはずなのだ。こんなイタチごっこをしてる場合では無いのだ。
「……うん、わかった。カナデちゃん、信じるよ……‼︎」
「はい!」
カナデは頬を紅潮させて感極まった顔で嬉しそうに返事をするのだった。
そして二人は一斉に駆け出した。カナデは時間を稼ぎに、葛葉は奴隷の子供達を逃す為に。
「―――ルプスさん!」
「【英雄】様」
ルプスの部屋の中に入ると、そこには五つの死体と、瀕死のリユルが寝かされていた。辺り一面は血の海となっており死臭も漂っていた。
「ご覧の通りです……。私は冒険者になってない為、自分のスキルがどう言ったものなのか知りません。もちろん魔法も使えません……」
「……」
いつ見ても慣れない。人が目の前で死ぬのは、今まで何回と見てきた。けど、やはり慣れるようなものでは無い。
それにこの子達は、自分が守ると約束し、それを信じてくれた子達だ。それなのに、自分は守れも救えもしなかった。
読んで頂きありがとうございます‼︎
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