十話 動きかけの物語
動く動く詐欺もいいところですね……。
「やっぱり……封印が解かれたのは本当だったようだね」
接待室で話し込む二人、その傍らには直立不動のメイドが居る。接待室は剣呑な雰囲気が充満しており、只事では無いことだけは確かだ。
「ほ、本当だ。極東の封印が解かれた」
「緋月が危惧してた通りだ……」
「ど、どうするんだ⁉︎ もう封印は解かれたんだ……いつ奴が這い出てくるか……」
終始怯えた表情の男性――鈴木壮介は緋月と葉加瀬に良いように扱われる便利屋みたいな物だ。これでも立派な転生者で、チートスキルも持ってはいる。
「……このこと王国は知ってるの?」
「王国だけじゃ無い、各国だ……いや、魔王軍にも知られてる。このままじゃこの国は滅ぶぞ」
「……内側からも外側からもか」
背水の陣とは正にこのこと。今の王国は袋小路に追い込まれている。葉加瀬は正しく状況を整理し、今一度考え直す。奴の復活は全世界に知られている、これは確定。その中には勿論、帝国と魔王軍も入っている。
今、この二つの国が攻め込んできたら本当に王国は滅びる。……が、帝国は心配無いだろう。あの国は既に王国の傀儡国家。ならば、問題は魔王軍だ。
「今すぐ私の計画立案を国王に届けてくれたまえ」
「え、は!? ど、どどどうやって⁉︎」
「私の名前を出せば、国王自ら来るだろうがね」
壮介が葉加瀬の発言に驚きまくる中、葉加瀬は言ってなかったっけ? とひょこんとする。そんなひょこんとする葉加瀬は、元国王専属の近衛魔術師団団長だったのだ。既に師団を抜けて早二年になる。
「とりあえず任せるよ。……きっと奴を倒せるのは一人だろう。それにその人物にはまだ時間が必要だろうし」
「え? その人物って? 緋月さんじゃ無いんですか!?」
「駄目だろうね。……奴を倒せるのはたった一人【英雄】の系譜のみだ」
「【英雄】の……系譜?」
「あぁ、だが系譜だとしても準備が必要だ。その間は我々が代わりで奴を足止めしようか」
「……どうすんですか?」
そう言って立ち上がる葉加瀬に、今まで目を瞑りずっと沈黙していたスミノが葉加瀬に声を掛ける。
「そうだね、とりあえずこのギルドの職員を派遣させようじゃ無いか。まぁ、とりあえずはその立案書を早く届けてくれ」
「わ、分かった」
そう言うと壮介は足早に部屋を後にした。それから暫くして、
「それじゃあ任せても良いかい? スミノ」
と葉加瀬がスミノに言う。スミノは葉加瀬のその言葉の真意を確かめるため間を開けて、一度顎に手を当て顔を上げると、
「……マジすか?」
と心底嫌そうな顔をしながら葉加瀬に聞き直した。
「あぁそうだとも」
「……はぁ〜仕方ないですね」
葉加瀬の有無を言わせない圧にスミノは本当に本当に嫌な顔をすると、深く重いため息を吐き仕方なく従うのだった。
読んでいただき、ありがとうございます!
第一部はそこまで激動とは行けませんね。ですが、ちゃんと物語を動かせます!