九話 慕われてないの?
メイドなのに凄いですね
「えっ!? あ、わちょ、あわわわわ、ぐぶぇふ⁉︎」
「緋月様。これでよろしかったでしょうか?」
緋月は受身を取れない状態で床へ顔から落ちた。そして紐を切ったであろう人物が声を発する。視線を向けると、ギルド長室の扉を片方だけ開け居たのは黒と白のメイド服を着た銀髪の美少女――スミノだ。
「言い訳ないでしょ‼︎」
「あら、失礼しました」
「この駄メイドめ!」
芋虫状態の緋月が顔だけを上げ、ロープの紐を切ったスミノに対して怒りを露わにする。が、スミノは反省してる素振りも見せず、葉加瀬に向き直り。
「葉加瀬様。お客人がお出でです」
「……そう。分かった。今はどこに?」
「接待室でお待ちしております」
「すぐに行こう」
先までの雰囲気と全く異なる雰囲気の二人に、葛葉と緋月は顔を見合わせる。何の話だろうかと詮索するが、する必要はないだろう。どうせ何を話されても分からず終いなのだから。
「二人とも、私は大切な話をしないといけないから、席を外すよ」
「う、うん。が、頑張って?」
緋月がそう声を掛ける。それを聞いて葉加瀬はスミノの一緒にすぐにギルド長室から出てってしまった。それから暫くして、緋月の亀甲縛りを解いた葛葉は、
「大切な話って?」
「……さぁ、ボクにもさっぱりだ」
「……………ギルド長ですよね?」
ほんとに何も知らなそうな緋月に葛葉は、緋月の役職を聞く。が返ってきた解答に葛葉は、清掃員とかじゃないよな? と緋月の役職を疑う。そんなこんなしてると、コンコンというドアをノックする音が聞こえてきた。
「どうぞー」
ノックに緋月が返事をすると、ギルド長室の扉が開かれガシャガシャという音を鳴らしながら入ってくる人物。
「……ん? ラグスじゃん!」
「あ、姐さ――って‼︎ な、ななな何て格好してんですか!?」
音の鳴る方へ視線を向けると、金色の鎧を身に纏った青年――ラグスが歩いてきていた。ラグスだと確認すると、葛葉はラグスに声を掛けた。そこまでならいつも通りで良かったのだが……。今の格好は男達にはかなり刺激が高いみたいだ。
「葛っちゃん……罪な娘……」
「あ?」
「す、すいません!」
変なことを言う緋月に葛葉はすかさず拳銃を構え、銃口を緋月の眉間の真ん中に狙いを定め固定する。そんな葛葉の愛らしい冗談に、緋月は怯えながら謝る。何をそんなに怯えるのか分からない葛葉。だって、こんなにも笑顔なんだから。
と自己暗示を掛ける葛葉の横でラグスは何があったのか大体理解できた。てか、葛葉の睨み――本人は笑顔のつもり――に冷や汗が止まらない。どうやら葉加瀬と葛葉を怒らせては駄目なようだ。
「……姐さん。すいませんでした!」
「……何が?」
葛葉が唐突に謝ってきたラグスに、構えていた銃を下ろしてキョトンとし、ラグスの唐突な謝罪の意を問う。ラグスは綺麗に頭を下げ、葛葉の問いに応えるため頭を上げる。
「二日も明けてしまって!」
「あ〜別に良いよ」
「で、ですが……」
「気にしないでって。有意意義な二日間だったよ」
ラグスの心配顔を見て、葛葉は励ますように言った。正直言って本当に有意義な二日間だった。もしかしたらあの機会には二度と会わなかったのかもしれない。ラグスには感謝しないとだ。
「そ、そうですか?」
「そそ。今日は時間的に無理かな?」
今はもう既に昼時だ。今からクエストとなると帰って来れるのは深夜になってしまう。何故ならクエストとは自然との戦いであるのだから。モンスターも結局は動物、採取や何かのクエストも自然。モンスターが急に変なところに行ったり、採取目的の採取物がその場になかったりと、完璧では無いのだ。それに夜のモンスター討伐や採取は命を落とす危険が爆増する。
「ですね。明日からまた、お願いします!」
「あぁうん。任せて」
そんな弟子と弟子候補の二人を微笑ましく眺める緋月は、窓の外、ゆっくりと流れる雲を眺める。嫌な予感が絶え間なく続くのだ。動いてはいけない歯車が動いてしまう。その歯車は周囲の正常な歯車も狂わせる。
「……嫌な気分だ」
緋月は吐き捨てるように呟いた。
読んでいただき、ありがとうございます!
なーんか物語が動きそうな予感が……。