八話 してしまったこと
最近、この時間に投稿するのが癖になったかもしれません……!
「――ここ、かな……?」
廊下をかなり歩き続け、足が棒になるかと思い始めた頃、葛葉はとある部屋の入り口にたどり着いた。
そこには親切に奴隷部屋と掛け札に書かれていた。中を伺ってみれば、そこは部屋というには余りにも酷すぎた。
「……痛い……痛い……痛い」
「ぁあぅ、うぅぁう? おぁう、ぁあ〜」
呻き声に悲痛な声、異臭に悪臭、見るに堪えない奴隷の子達の姿。壁には血がこべり付いている。
余りに惨い光景だ。すぐ目の前の部屋というか、どちらかと言うと牢の中では、目に生気がなく声を発しても、発しているのは言葉ではなく、廃人のような姿の子も居た。
「こんなの……」
地獄だ、と口から出そうになった言葉を、手で口元を抑えて、押し込んだ。それを言うのは違うだろう、しかも本人達の前で。何のためにここに来たのか、それは助けるためだったはずだ!
「……でも、動ける子しか助けられない」
残念だがここに居る全員を助けることは出来ない。動けない子を抱き抱えて助けようにも、葛葉の身体の大きさでは精々二人が限度だ。それに途中で傭兵達に見つかった場合、抱えていた子達を降ろすのに時間が掛かり、他の子達を守れなくなってしまいかもしれないからだ。
「……っ。私に、出来ることをするんだ!」
意を決して拳を強く握り締める。
カナデが送り出してくれた意味を思い出せ。逃げさせるためだけじゃない……あの目は、葛葉を信じている目だったのだから。いつもの目と違って。
ゴクリと固唾を飲み込み、歩くのを再開する。見るだけで、聞くだけで、頭痛が吐き気がして来る。だが今は我慢しなければならない、この子達のためにも。
そして暫く歩いて奥の方までやって来た。その時だった、
「お、お姉ちゃん……誰?」
「っ」
不意に掛けられた声に葛葉は顔を向けた。すると鉄格子の向こう側に、今まで見て来た子達よりも一際幼い子が、胸に両手を添えて怯えていた。
「お、おい、リリシヤ! 危ないからこっちに来い!」
と葛葉の視界の外から、怯えていた女の子の肩を掴み優しく引っ張り寄せる、男の子の声。葛葉が顔を少し上げれば、そこには睨んでくる少年が居た。
その後ろにも十何人もの幼い子供達が、身を寄せ合い恐怖からなのか、身体を小刻みに震えさせていた。
「……あ、あぁごめんね。驚かせちゃったよね……? お姉ちゃんはね、君たちの事を助けに来たんだよ!」
安心させるように諭すように、葛葉は慣れてない笑顔と言葉遣いを使い、子供達の警戒を解こうとした。のだが、
「し、信じられるか‼︎ お前ら人間共は、すぐそうやって騙そうとする‼︎」
「……っ」
「前にそう言ってくれた姉ちゃんも! 自分がヤバくなったら直ぐに俺達を見捨てたんだ!」
葛葉の苦労も虚しく、警戒心がレベルMAXの子供達には意味がなかったようだ。
「……確かに私達、人間は君達をこんな目に合わせたよ。でも、それでも……中には優しくて、君たちに寄り添ってくれる人達も居るって、信じ……!」
「――うるさい! 信じさせてくれなかったのは、お前らだろ‼︎」
「……」
葛葉は黙ってしまった。本来ならこの場で黙って良い訳がない、根気強くこの子達のことを説得するべきなのだ。だが葛葉には出来ない、説得させることができない。
どんなに言い繕うとしたって、やったのは葛葉達人間。そんな人間が、この子供達に綺麗事や信じてなど、言えるはずがない。言えたとしても意味が無い。
たとえこのような扱いをしたのが、葛葉ではなくても関係無いのだ。この子達の憎悪は、この子達の目の前にたった人間、全てに等しく存在するのだから。これは、こんなことをしてしまった時点で生まれる義務だ、憎悪を向けられるべきことをしたのだから。
読んで頂きありがとうございます‼︎
ま、こんな大層偉そうなことを言ってますが、自分は責任や義務が発生するようなことはしたくないと思う自己中野郎です!
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