七話 正論と純愛?
今日もいつもの時間に用事があるので早めです!
(――来た)
薄暗い部屋の中で淡い光を揺らす松明。それに照らされ、近づいて来る影があった。
それをカナデは鉄格子越しに、警戒しながら眺めていた。徐々に近付いて来る影に、タイミングか合うように構えながら待ち、そしてその瞬間がやってきた。いつも通り、カナデはスキルを発動させ、対象と自分の位置を変えるはずだった。
「……――っ⁉︎ 何で、発動しないの⁉︎」
「ひひひ、残念だったなぁ入れ替わりぃ」
「……お前」
「ひぃ〜怖い怖い。おっかねぇガキだなぁ」
ちゃんと発動しないスキルに戸惑ってると、目の前にたった男が笑いながら声を掛けて来た。
それは葛葉が憎む狂人だった。そんな男にカナデは、殺気をのせた声で男を睨む。
「なんだぁ? ひひ、お前ぇ……あの【英雄】にぃゾッコンなのかぁ?」
「お前を……許さない」
「ひひひ、その上。クソ高けぇ盗聴魔法をわざわざ買ってよぉ、ひひひ。気持ち悪ぃなぁ!」
「……」
殺気の籠った声の原因は、単に葛葉のことについてだった。そう、カナデは葛葉の事が好きで好きで大好きなのだ。毎夜毎夜、葛葉と仲良くイチャイチャしてる妄想をしてから寝て、その夢を見ている。愛……いや溺愛だ。
「……はぁ、これだから男は。……これは、純愛ですよ」
「ひひっ……盗聴もかぁ?」
ため息を吐いてカナデは立ち上がり、男に向かって中指を立てそう言い捨てた。が男は、今までの狂人っぷりがなくなり、ただただ正論を言うだけだった。
「英雄様のことは常に見守ってないと行けませんから」
「だがぁ肝心な時には居ねぇってのは意味ねぇんじゃねぇかぁ?」
「……黙れ」
この男はどういう性格をしているのか、声だけで分かる。人の痛いところを突き、人の嫌がる事をして、人の悲しむ事を平気でやるクズ。
自分が溺愛している葛葉を、悲しめた罪は重い。とカナデは自分の盗聴の事を棚に上げて、激昂する。
「ひひっ……ん、チッ」
男は狂笑を浮かべていたが、手元を一瞥してから舌打ちをし、両手を肩より上に上げた。
「今は大人しく入れ替わってやるよぉ。けぇどなぁ、またテメェらの前によぉ、現れっからなぁ!」
「……そうですか」
既に位置を入れ替えたカナデは、鉄格子の向こう側に居る男に振り返って、冷たい声で答える。
「あぁそれとぉ。あの【英雄】に伝えとけぇ? 楽しいショーはまだ残ってるぜってなぁ! キヒッ、ケヒヒヒヒ‼︎」
男はそう不可解な事を、カナデに伝えて高く大きな狂笑を上げた。
カナデはそんな男に、軽蔑しゴミを見るかのような目を向け、そのまま歩いて去って行ってしまうのだった。
「……そぉう。たぁのしぃ〜ショーがぁなぁ……‼︎」
男のそんな声が、カナデの背後から聞こえて来るのだった。
読んで頂きありがとうございました‼︎
魔法等は高いですが魔導書や巻物があれば使えるようになるんですよ! ほぼ新しい設定ですねw
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