四話 逃げても……
今日は早めです
――それから暫くして、剣戟の音が聞こえてきて、その音は徐々に近づいてくる。他にも男達の怒号が飛び、幾重も足音が重なって。自分が何もしなくても、自然と物事が進んでいってしまう。
そんなのは、嫌だ……‼︎
「――英雄様!」
名ばかりの【英雄】が、牢の中でへたり込んでいると、明るい声が掛けられた。
「……カ、ナデちゃん?」
「はい! 英雄様、助けに来ましたよ!」
声を掛けて来たのは、葛葉の事を見る目がヤバいカナデだった。
装備である軽装はボロボロで、全身にも浅い斬り傷が刻まれていて、激しい戦闘をして来たのだと分かる。
「……どうして、どうしてここに……!?」
「英雄様が、連れ去られてるのを見て、急いで追って来たんです!」
戸惑い、驚き、困惑、驚愕と同じ感情が葛葉の心を埋めていく。
「逃げて」
「……英雄様?」
今の葛葉に出来ることはない。それに今の葛葉は【英雄】ではないのだから。
カナデは不安そうな表情をして、へたり込んで俯く葛葉へ手を伸ばそうとする。いつも通りの葛葉では無いと、誰もが見てもそう思うだろう。
「ど、どうしたんですか……?」
「私が逃げても意味がない……。それに、カナデちゃんが捕まっちゃうから。だから、今直ぐ逃げて……」
力無く言う葛葉。いつもの優しい声ではなく、何処か余裕が無いような、今にも声を荒げるような、そんな焦りが声に乗っていた。
「……大丈夫です。私のスキルなら!」
「え?」
その言葉に、葛葉が俯いていた顔を上げると同時に、葛葉の身体は鉄格子の向こう側に居た。
瞬きの間に、葛葉は牢から脱出していたのだ。
「私のスキルなら、こうやって位置を入れ替えることが出来ます。ですから、私は危険な目に遭いませんよ!」
と声を掛けてくるのは、牢の中にいた葛葉と入れ替わったカナデだった。
一瞬のことでビックリしたが、葛葉は直ぐに冷静を纏い、カナデへ感謝を言おうとしたが、部屋の外から男の怒号が飛んできた。
「……っ!」
「英雄様、逃げて下さい! 私も直ぐに逃げ出しますから!」
「……わ、分かった!」
時間が迫ってる中、流石の葛葉もいつまでもウジウジしている訳にはいかず、カナデの言う通りに、ここからの脱出を目指すことにした。
走って部屋から出て、左右の確認。幸いにもまだ囲まれる前みたいだ、だが左から二人ほど傭兵がやって来ている。
「……とりあえず」
葛葉は戦いを避けるため右を選んだ。Lv.2の冒険者の疾走に、冒険者でもない傭兵が追い付ける訳もなく、見る見る内に距離が開いて行った。
(……このまま、逃げていいのかな)
ふと葛葉は疑問に思った。自分は何のためにあの場で、あの少女と戦ったのだろうか。
……奴隷を助けるためだったはずだ。
最早、大義も正義もクソも無い。さっきの少女みたいに、抵抗出来ず、散々痛み付けられて、無惨に死ぬために、生まれて来た訳じゃ無い。
あれは到底許されざる行為だと。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
今日はいつもより断然早いですね! ま、この後用事があって、いつもの時間に投稿出来なさそうだからですかね〜。
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