十六話 謙遜と戦死⁉︎
まだまだ死にませんよ!
「今……」
自分の首元に手を添えながら、震えた声で葛葉は少女のことを見据える。その少女は刀の切先を地面に向けて、ただジトっと葛葉を眺めているだけだった。
「……今、あなたには二つ見えましたね?」
少女は刀の刀身に手を当てて、葛葉の驚愕した顔を見やり、ボソッと声を投げ掛ける。
「首と目の前でしょうか?」
「……今のは?」
「我流のお粗末な剣術ですよ」
少女は自嘲じみた笑みと共に、そう吐き捨てるように呟いた。
「――違いますよね」
「……?」
「お粗末なんて……違いますよね?」
我流のお粗末な剣術。少女はそう言ったが、葛葉には到底そうは思えなかった。
素人目の葛葉ですら、その剣術の凄さに気付けた。一糸乱れぬ刀捌きで、その上に物凄い速さと言う。葛葉の反射神経が鋭くなかったら、間違いなく死んでいた。
「その剣術は努力して、洗練された物ですよね」
「……嬉しいこと言ってくれますね」
「謙遜なんて、もったいないですよ」
努力をしている人ほど、よく謙遜してしまう。そう言う人が多い気がする。目の前の少女も、あの人も……。
「なら……こちらも本気でやらなければ、無作法と言う物でしょうかね」
「……あ、あまり本気は出さなくても〜」
少女がニコッと微笑み、刀の柄に手を置いた瞬間、葛葉の顔が青ざめる。
「いいえ、やる気を起こしたのは【英雄】さんでしょう? ……さ、構えて下さい」
少女の声音が変わり、雰囲気が変わって緊張が走る。ナイフを両手に持ち、いつでも攻撃できるよう、相手の攻撃を防げるように身構えた。すると
「仕掛けてもらっても構いません」
「……な、なら遠慮なく……」
少女が目を瞑りながら言ってきた。
葛葉はそれに応えて一拍間を置き、走り出した。それを見た少女は、姿勢を作り、刀の柄を確かめるように握り締める。
そして自分と葛葉の距離が五メートルを切ったところで、少女の世界が変わった。色は無くなり、音のみの世界。そして自分の周りに浮き上がる、白い光だけが色を放っている。
そしてその白い光の一部が、何かに遮られた。その直後、刀の刀身が鞘から姿を現し、超スピードで空気と共にその何かへ当たった。
「――ぐっ!」
バキベキと嫌な音が鳴る腕に、葛葉は奥歯を噛み締めて、すぐに伝わって来た苦痛に耐えようとする。
「うっ、く……ぁ」
そして葛葉は飛ばされて、身体は近くに置いてあったものの上に乗っかっていた。
「居合抜刀……『散花』」
剣を振り抜いた少女が口にするのを見て、葛葉は、
「散華って……戦死とも言うじゃん」
と頬を引き攣らせるのだった。
読んで頂きありがとうございます‼︎
葛葉はいつも戦いになると吹っ飛ばされてばっかですね! 痕とか大丈夫でしょうかね!
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