十五話 大義の為に
今日はバチクソ早いですね!
腕の傷を治し、ゆっくりとついていた膝を離して立ち上がる葛葉。目はキリッとしていて、いつでも戦えるように臨戦体勢だ。
「……? 【英雄】さんは、もしかしてこの街のギルドがしていることを知らないのですか?」
「……していること?」
両者一触即発の雰囲気が、少女の単純な質問によって、易々と打ち破られた。少女が首を傾げ、葛葉も首を傾げる。それを銃創を抑えながら見守る好青年、そしてその三人を物陰から覗く複数の傭兵達。
かなりシュールな光景だった。
「知らないようですね……。特別にお教えましょう」
「……まーた始まっちゃったよ、師匠の教え癖が」
葛葉の反応を暫く眺めていた少女が、ニコッと微笑み楽しそうにそう言うのに対し、好青年はうんざりっと言わんばかりの表情でぼやく。そして葛葉は、急に始まった不思議な状況に、オドオドしてしまうのだった。
「……【英雄】さんはご存知ありますか? 奴隷を」
「奴隷……、知ってる。けど、それがど……」
「奴隷を売る、奴隷商がこの街に向かって来ているんですよ」
「……」
奴隷。知らないわけがない。アニメでは奴隷のヒロインが居たりしているのだ、奴隷という存在を知らないのは、せいぜい小学四年生くらいまでだろう。前世の世界でも、何百年か前までは奴隷制度があったのだから。しかも、ここは異世界だ。世知辛く理不尽な異世界だ。
「そこの人たちは、その奴隷商に雇われた傭兵です。金に目が眩み、世界を渡り歩いて奴隷狩りを行う。そんな人達ですよ、まぁ私達も人のことは言えませんが」
「……」
キッと葛葉の鋭い視線が物陰に隠れる傭兵達に向けられる。奴隷狩り……平和に暮らしていた人々を襲い、攫い、殺し、殺戮し、恐怖を植え付け無理矢理隷属させ、物として扱う。正真正銘のゴミ屑共だ。
「……なら、あなたもそうじゃないの?」
「えぇ、捉え方としては合ってます。ですが、私達は奴隷狩りをし、奴隷を売った利益で至福を肥やす目的で、雇われたこのクズ共とは違いますよ」
「……それは、ただの言い訳でしょ?」
「そうですよ、言い訳ですね。ですが、私達は私達なりの大義を持って、この卑劣な行いに手を貸してるんですよ」
ナイフを構え、殺気が募って行く葛葉。少女も刀を鞘から引き抜いて、いつでも攻撃か防御できるように身構える。
その二人の顔を交互に、冷や汗をかきながら見やる好青年。再び、状況は一触即発へとなった。
「大義? ……その大義がどれくらいかは知らない。でも、そんなことで他人を巻き込むのは間違ってる」
葛葉はそう言いながらナイフの柄を握る力を更に強める。大義だ正義だ、そんなのは関係ない。ただ、奴隷狩り集団が許せないだけだ。
「……――『紅焔鎧』‼︎」
「――残影真っ向斬り」
二人が声を上げ技を発動するのはほぼ同時だった。
葛葉の全身を淡い焔が包み目にも留まらぬ速さで駆け出す。対して少女は刀を構え、真っ向から斬り掛かるのだった。
このまま、超スピードで少女を気絶させれば終わる。そう思ったと同時に、葛葉は足を止め、バク転をして後ろに後退したのだった。
読んで頂きありがとうございます‼︎
奴隷キャラのヒロインって多いですよね。まぁ、その属性も良いのですが。
ですが、この物語において悲劇のヒロインは不要! 皆んながハッピーになれる物語のはずですから!
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