七話 やられたらやり返す、倍返しで!
序盤の防具なのに強くない?
「……っ! 何を?」
「あぁごめん」
葛葉は華麗に背後からの攻撃を交わし、背後にいた千佳に問う。葛葉の右手はナイフの柄を握っている。
「その防具の耐久性を見せてあげようと思って……」
「……はぁ、そう言うことは口で言ってください!」
「ごめんごめん!」
謝ってくる千佳に葛葉は注意をガミガミ言い、その後に防具の耐久性を実感させて貰った。
安物の武器の攻撃は全く入らず、痛くも痒くもなかった。これならモンスターが使うお粗末な武器の攻撃を喰らっても痛く無いだろうと。
「……なんか普通に強くないですか? 序盤の装備とは思えない……」
「値段の額が額だしね。適当な物は作れないよ」
「えっ、緋月さん一体何フェル払ったんですか!?」
「ざっとゼロが五つ」
「なっ!?」
あまりの金額に葛葉は目が飛び出しそうになってしまった。ゼロが五つだと、最低でも十万円だ。でも、それよりももっと行ってそうで怖い……。緋月さんは何を考えているのか、とそう思ってしまう。
そして、それからしばらく話し合い。葛葉は店を後にした。
「……っ。自然と、手が動いた」
先程の耐久性の時の自分の行動だ。
背後からの完全なる奇襲を避け、反撃のためにナイフを抜こうとした。
「……何で、俺にそんな事が」
出来るのか。葛葉は所詮、ただの引き篭もりだ。外が怖く、他者と関わらず、誰も傷つけない自分も傷つかない。そんな生活の中、暮らしていた。
それなのに、今日。初めて葛葉は誰かを無意識で傷つけようとしたのだ。一体何が原因なのか。
「分からないなぁ」
考えて見てもさっぱりだ。顎に指を当て思考していた葛葉は考えるのやめて、ギルドに向かうのだった。葛葉は気付かない。極限の戦いの上で、身についた本能的な力に……。
「うぅ〜……視線が痛い……」
大通りを歩きながら葛葉は唸るように呟く。周りから注がれる視線に。
葛葉を二度見する者や、鼻の下を伸ばし見る者。彼女か奥さんか知らないが、女の人と一緒に歩いてる男性が葛葉をジーッと見て、ビンタされたり。
私が歩くだけで人に危害を加えてしまうなんて……。(主に男性のみだが)
クズな男共のせいで、葛葉の良心がガリガリ削れていく。
「……これも全部緋月さんのせいだ」
緋月に会ったらどうしてやろうか……。と考えている間に、ギルドに着いてしまった。
取り敢えずは気を取り直し、ギルドの扉を開いた。
……予想通り中はギルド職員しかいない。それにこのギルドの職員は女性が多い、別に見られても問題は無い。
入ってきた葛葉の格好に驚く職員は誰一人として居ない。なぜかと言うと冒険者は妙に、妙ちくりんな格好をしたくなる傾向があるのだ。
葛葉以外の女性冒険者も、かなり露出が高い装備をよく着ているので今更に驚く事はない。が、ギルド職員の視線は葛葉ではなく、ギルドに備えられているバーの、バーテンダーに注がれていた。
「……見られないな」
視線を感じない葛葉は少々驚きながら、ギルドの奥の部屋に続く扉に入っていった。
バーテンダーは初老の男性で、ギルドでは数少ない男性職員だ。他の男性職員は今はホールに居ないので、彼のみとなる。
「……見てはおりませんよ?」
バーテンダーは女性職員の視線に耐えかね、葛葉の姿を見ていないと、そういった。(事実そうなのだ)初老の男性職員は本当に葛葉の姿を見ていない。だが、女性職員からはまだ疑いの眼差しを受ける。
――そんな事は露知らず、葛葉は迷い無く緋月の居るであろう部屋にたどり着く。
そこはギルド長室。ギルド職員でも限られた者しか入れない部屋だ。なのだが、何故か葛葉は自由に出入りできてしまうのだ。
「ふははは、えらい目に遭わせてあげよう」
そう言い、金で装飾された豪華な扉の取っ手を握り、扉を開けた―――と同時、葛葉は目を見張った。
何故なら、
「…………えぇ」
ギルド長室の真ん中で緋月が倒れていたのだから。その光景を目にし、葛葉は困惑の表情を浮かべなんか面倒臭そうな事になりそうな光景に、頬をが自然と引き攣る。
「ん……葛葉ちゃん。その防具……」
「勘違いしないでくださいよ!?」
接待用のソファーに座り、ノートパソコンで仕事をこなしていた葉加瀬が入ってきた葛葉を一瞥し、ノーパソを閉じて声を掛けてくる。葛葉は勘違いしてそうだった葉加瀬に、葉加瀬が何かを言う前に先に言った。
「それくらいは分かっているよ。大方、緋月が君に何も言わずに千佳にそれを作らせたのだろう」
まるで全てを見てきた葉加瀬の言い方に、葛葉は感嘆の息を漏らし凄え〜と思う。葉加瀬はソファーから立ち上がり、緋月の元まで歩くとしゃがみ込み、緋月の頬を優しく叩いたり、抓ったりする。
「緋月、葛葉ちゃんが来たよ」
「……――ッ! ほんと!?」
まるで魔法でも掛けて貰ったのかと疑うレベルで緋月が起きる。床に倒れて、白目を剥きながらあーと呻いていた筈なのにだ。
「葛っちゃ―――」
ウキウキワクワク状態の緋月は、葛葉を周囲を見回して探し部屋の扉に視線を向けたところで、葛葉を見つけた。そして漫画でブッシャァアアアア‼︎ という擬音が付きそうな量の鼻血を出してぶっ倒れた。
「……ふぇ、ふぇへへへへ最っ高〜」
と指をグッジョブの形にしていた緋月が最後にそう言い残し、力尽きた。その一部始終を見ていた葛葉と葉加瀬は数瞬、瞬きを繰り返して、
「……いや! 死んで無いでしょ!」
「あぁ、そうか」
緋月の首に指を当て脈拍を測ろうとした葉加瀬に反射的にツッコンだ。すると葉加瀬はハッとし、立ち上がる。
「どうします?」
「……ふむ。葛葉ちゃんの好きにしてくれていいよ」
「えっ! 本当ですか⁉︎」
「あぁそうだよ」
葉加瀬の一声で葛葉の目が爛々と輝き、ニコニコと愛らしい笑顔を浮かべるが、直ぐに何かを企てる悪役みたいな表情浮かべる葛葉だった。
読んでいただき、ありがとうございます!
緋月はどうなってしまうのか、次話も読んでくださると嬉しいです‼︎