一話 惨劇の足音
今日も早い!
俺の故郷はあの日、炎の海に飲まれて、人も家も何もかもが、無くなった。
――13年前――
それは最悪と言われ、全世界から唾棄された事件だった。
かつて極東に存在した獣人――狼戦族。人の住む場所から何十キロも離れた山奥で彼らは生活をしていた。
飢えることもなく、他殺されることもない平和な暮らし。そんな平和な暮らしが、この日に起きた事件で、幕を閉じたのだった。
それはいつも通り、晴れ渡った青空の下、農作業を始めて空が茜色になり、人々が家に帰り始めた頃だった。
「……――ねぇ、お姉ちゃん」
「ん? どうしたの?」
当時四歳のガルンディアは姉と一緒に家に帰っていた。ついさっきまでこの里にいる、同年代の子供達と遊んでいたのだ。
「なんか、嫌だ」
「何それ、本当にどうしたの?」
まだ四歳のガルンディアには初めて抱く、この不可解な感情を言葉にするのは難しく、稚拙な言葉で最愛の姉にどうにか伝えようとする。
だが伝わるはずもなく。ただ、姉に心配を掛けさせてしまった。
ガルンディアは人一倍の危機察知能力が、生まれた時から持っていた。スキルとはまったく違った、彼の才能だ。だが、その才能も四歳の子供には上手く扱えなかった。
そして悲劇はこの会話からニ時間経った頃だった――。
「ほら、ガルも手伝って」
「うん」
家族でいつも食事をするテーブルの上を拭いている姉が、少し離れたところで遊んでいたガルンディアにも手伝うように声を掛けた。
「ありがとねー、二人とも偉いね」
「うん。……ねぇねぇママ? パパは?」
「んー? なんか会議があるって。帰って来るのはもう少し遅くなるみたい」
「へぇ〜珍しいね」
姉がテーブルを拭き終わり、台布巾を母の下へ戻しに行き、いつもならすでに帰って来ている父のことを尋ねた。
ガルンディアの父は、この狼戦族の里を守る傭兵なようなもので、平和な場所故に帰って来るのも早いのだった。
だがそんな父が今日は帰って来るのが遅いのだ。
「ま、あの人の分は、後で作っとくから。二人は先に、ママと一緒に食べちゃおっか」
「そうだね。ねぇ、ガル」
「……うん」
二人が料理を持って来て、テーブルの上に置いていく。出来立ての料理は、ホカホカと湯気を立てており美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐっていく。
ぎゅるるる〜と鳴るお腹に、手を当てガルンディアはスタスタと席に着いた。と同時だった。コンコンと、木の扉をノックする音がしたのは。
「……あら、遅くなるって聞いてたけど」
母が扉に顔を向け、首を傾げながら近付いて行ってしまう。
その時、ガルンディアは生まれて来て四年の内に、味わった事のない感覚に胸が埋め尽くされ、圧迫されているかのよう感じたた。
呼吸が思うようにできず、足が動かない。危険だ、あの扉を開けてはならない、早く母を引き戻さなければ、そんなことがたくさん思い浮かんだ。だが、今のガルンディアには何も出来なかったのだ。
それを見ていた姉が、眉を顰めると同時だった。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
今回の章は多分早めに残酷シーンが来ます。ですので苦手な方はあまり読まない方がいいと思います。こればっかりは読者様の意思で決めて下さい。
そしてそして、受験ですが……人事は尽くしたので、後は神様に委ねます。
……とりあえず賽銭箱に万札入れてきます!
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