十八話 死んだ心
今日は早い!
――パフェを食べ終えた二人は店内でのんびりしていた。世間話をしたり、明日の予定のことを話したり、これからのことを話したりと。
「……」
そして葛葉は遂に決心した。今日、唐突にデートに誘った理由である話をするために。葛葉は意を決して、重い口を開くのだった。
「緋月さん」
「ん? 何だい?」
「……あのお屋敷で何があったんですか?」
「――っ」
きっと聞いてはいけない話なのだろう、聞かれたくない話なのだろう。緋月が先程まで上機嫌に、ニコニコと微笑みを湛えていた表情は消えていて、今は張り詰めた表情だった。
緋月は何度か口を開こうとして、ゴニョゴニョと口を動かすも、言葉が出ない、言葉が重い、喉につっかえて出て来てくれない。口にするのが怖い。
「……無理には聞きません。ただ、一言言わせてください」
「……」
どんなに強くなっても緋月は恐怖には逆らえなかった。五年前唐突に大切な人を失い、何かを失うことへの恐怖を知った緋月は、恐怖に支配されてしまった。
心を閉ざし誰とも話さず、仲良くせず交友を断ち、孤独に生きようとした。したはずだった。
心を閉ざした緋月の心をまろやかに溶かして、仲良くなり交友を無理やりさせられて、色を失った毎日を彩っていくあの人物と出会ってしまった。また、大切な人ができてしまったのだ。
「緋月さん」
ギュッと力強く握っていた手が、葛葉の、その声の暖かい温もりと、優しい声が耳朶を撫でて行ったことで、フッと力が抜けた。
ハッと顔を上げると、そこには葛葉の微笑みがあった。葛葉の手を両手で包み込み優しく握り、微笑みを絶やさず安心させるような声で葛葉は、緋月に声を掛ける、
「頑張りましたね」
と。
「―――」
瞬間、緋月は今までの疲労が消えたかのように思えた。甘く暖かい声が、氷のように凍った心を溶かしていく。身体が、胸が、いやそれら全てをひっくるめて、芯の奥からあったまっていく。
「緋月さんは、何もしていないようでずっと我慢してましたよね」
「……な、にを言って……るんだい? ボクは、我慢なんて」
「分かりますよ、緋月さんの目を見れば。ずっと自分を押し殺して、頑張り続けた人の目と一緒です。私はそう言う人が身近に居ましたから」
あの破天荒で奔放で、自分の好きなことをやっている緋月が、葛葉には自分を押し殺していたかのように見えたらしい。だが、あながち間違ってはいなかった。【英雄】が死んだ日、緋月も死んだのだから。
「だからせめてもの労いの言葉です。あの屋敷には、大切な思い出があるんですよね」
「……」
「貰った身ですから、自分の命くらい大切にしますよ」
「…………葛ちゃん。やっぱり君は、【英雄】だよ」
緋月の思う【英雄】とは、人々を助け、恐怖を跳ね除け、人々の心をも救う、そんな人だ。自己犠牲前提の【英雄】ではなく、誰も傷つかない、傷つかせないのが本当の【英雄】なのだと思っている。
心も救ってこそ、本当のヒーローになれるのだろう。
「……ボクのことは気にしないで良いさ。今ので十分救われたからね」
「そ、そうですか?」
「君なりの助け方だったのかな、これは」
「……緋月さんの喜ぶことってこんものじゃないですか?」
「き、君はボクのことを何だと思ってるんだい?」
あまりの浅はかな考えに、緋月は思い当たる節がないぞと言った顔で、ぶーっと頬を膨らませ唸りだす。
そんな自覚症状がない緋月に葛葉は苦笑するしかなかった。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
まぁ、なんか聞いた事があるセリフが多々あったと思いますが、読んでいなかったことにして下さい。
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