十四話 葛藤と新居
今日は遅くない……かな?
――楽しかった思い出も、辛かった思い出も、何もかもを作り直していく――。
(駄目だっ! 考えるな! ボクは……)
考えが……いや意志が揺らぐ。何度も、何度も何度も、何もかもを失って来た少女には、過去に縋り付いてしまう癖があった。何故なら、その過去は彼女にとって"楽しい"過去だったのだから。
『じゃあ、お姉さんとここで暮らそうよ!』
その言葉が何度も脳裏を過っていく。
『緋月っ! 君はっ……【英雄】の仲間だったろう?』
それは緋月を更に強くした言葉。
守れなかった者、守りたいと願った者。何もかも守れなかった、そんな愚かな少女は血の滲むような努力を積み重ねて、五年という歳月でギルド長の座に着いた。
それが何の役に立つのか。
(ボクが今やるべきことは、葛っちゃんの役に立つことなんだ!)
緋月は媒介に流している魔力の量を、更に増やすのだった。
「ふぅ、こんなものかな」
十畳ほどの部屋の中で、葛葉は一息吐いた。壁際に置かれたシングルベッド、隣にはちょっとしたベッドサイドテーブルがあり、その上には魔石灯が置かれている。ベッドと反対側の壁には、クローゼットがあり既に着替え等を収納してある。
陽光がそんな室内を照らしていた。
(久しぶりの、自室!)
昨日までは、どっかの誰かさん達のせいで葛葉のプライベート空間は何処かへフライアウェイしていたが、今となってはもう葛葉の手の中だ。これで緋月を毎朝三階から投げ落とす必要が無くなった。
「よかった…………あの人がタフで」
日本でそんなことしたら、間違いなく葛葉は刑務所での暮らしになっていただろう、長い長い刑務所での生活が。
「……さてと」
引越しが済んだ部屋を一度見やり、葛葉は腰を左右にグイグイと捻ってから、後ろにある扉の取手に手を掛け、部屋から出るのだった。
扉を開けると、前にはまた扉がある。葛葉の部屋の前にはトイレがあるのだった。漏れそうな時でも安心な設計だ。
廊下の横幅は二メートルほどあり、かなり広い。日本の住宅の多くが約90cmで造られているのだが、ここは異世界でしかも屋敷だ。この広さは当然だろう。そしてトイレの隣にある部屋は、大きな物置部屋だ。今後はここを冒険道具や、何かの道具をしまう部屋として活用していくつもりだ。
そして葛葉の部屋から長い廊下をかなり歩いて、やっと一階につながる階段に着いた。階段を登ると鬼丸の部屋が、いの一番に目に入る設計なのだ。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
ぐへ、ぐへへ、やっと百合百合展開が本気で書けるようになるぜぇい! やったね!
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