十六話 ついさっきはお楽しみでしたねwww
今回の題名、ちょっと変えると鬼丸が言ってそうですね……。
「……うぅ、なんでぇ」
全身をローション――スライムの分泌液でベタベタにして、街の往来を歩く美少女。そう、紛うことなき葛葉であった。
「……さ、災難でしたね」
半泣きし、分泌液の嫌な匂いに呻きながら歩く葛葉に、後ろから汚れひとつない律が声を掛ける。
なお、汚れ一つないのは律だけではなく、五十鈴も鬼丸も汚れ一つなかった。
「いやはや、眼福じゃったの〜」
「……何故、葛葉様だけだったのでしょうか」
そう、あの後大量のスライム達が襲い掛かって来た為、全員で戦いながらダンジョンから出ようとしたのだ。だがほとんどのスライムが葛葉だけを狙い、律達に襲い掛かったスライムはほんの二、三匹だけだった。
「わしの伴侶は可愛いからのう! スライム達も良い目を持っておる〜」
「ははは〜、ぶっ飛ばすよ?」
笑いながら冗談を言う鬼丸に対し、憎きスライム達に弄ばれた葛葉は拳を握りながら睨め付ける。鬼丸は、お〜怖い怖いと呟きながら肩を窄めるのだった。
「全く……三人はこの後どうするの?」
「私達ですか? 私はですね……色々とアイテムの補充に出掛けたいと思ってますが」
「でしたら、私も一緒に行きたいですね。今日みたいな事が次もまた起こるのなら、何か魔獣や魔物の注意を引くアイテムが欲しいです」
「わしは何もないのう。……いや、暇じゃしな。二人に着いて行くのじゃ」
葛葉が振り返り、後のことを聞くと三人ともどうやら買い物らしい。鬼丸も着いて行くのは意外だったが。
「へぇ〜……じゃ、まぁ気を付けてね」
「葛葉さんは、お風呂ですよね」
「それ以外に何があるんだろうね〜」
分泌液塗れの身体を隅々まで洗い流したい。それが、今の葛葉の唯一の願いだ。
「アイテムの換金は私達がしますから、葛葉さんはお風呂に入って来てください」
「うぅ、ありがとう律」
「い、いえいえ」
今日のクエストでは、身体的なダメージよりも精神的なダメージのがキツかった。
なんせ、相手はスライムだ。擬人化して子供になってくれるスライムでもなく、スライムが転生先だった元人間でもない、ただのスライムだ。本能のまま、行動をするのだ。
「はぁ、もうスライムなんて二度と見たくない……」
「トラウマになっとるのう」
表情を死なせ、生きる屍のような歩き方をする葛葉に、隣を歩く鬼丸が苦笑する。ダンジョンはもう懲り懲りと、葛葉が感慨に耽っていると、
「――たくっ! あのアバズレ!」
ギルドに着いたと同時に、ドアを蹴り開けるような勢いで開けて、青年が出て来た。両手をポケットに突っ込み、姿勢悪く歩いて去って行く。そんな青年を葛葉達は驚きながら見届けていると、スタスタとギルドの中から足音こちらにやって来た。
「はぁキッショ。マジであいつだるい」
超嫌な顔をして、煙草を口に咥えながらギルドから出て行くシスターの美女。美女が去っていったあとは、煙草の嫌な匂いが残る。
そしてまた、葛葉達はそんなシスターを見届けるのだった。
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やはりあの二人は仲が良いのでは? トムとジェリーみたいに……。喧嘩するほど仲がいいと言いますし。
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