十五話 奴隷狩りならぬ奴隷商狩り作戦
奴隷なんて唾棄すべき行為!
「……こちらも自己紹介するけど、良い?」
「うん、もちろん」
「そ、そう。……えーと、ボクは八重樫緋月、このギルドの長さ。そんで……」
「月島葉加瀬……秘書をやっている」
いつもの調子をどうにか手繰り寄せた緋月が、作り笑いを浮かべて自己紹介を済ます。そしてバトンを葉加瀬へ渡すが、葉加瀬は淡々と自己紹介を済ませた。
葉加瀬は今までのやり取りに、何にも感じていなかったようだ。
「ふむふむ、噂に聞く【戦帝】と【悠久無双の魔女】は普段からも覇気を纏ってるんだね」
羽衣が何度も首肯しながら緋月達を見る。
弱者には強大すぎるが故に認知できない覇気。羽衣のレベルは6であり、二人の覇気はひしひしと伝わってくる。だが、ガルンディアとカミラは覇気を感じれない。この二人のレベルは5。まだまだ、羽衣よりも弱いのだ。
「……覇気?」
「……」
緋月は頭を傾け疑問符を浮かべる。
葉加瀬はその羽衣の発言にただ黙りを決め込む。そして暫く間が開いてから、羽衣がパンと手を鳴らした。
「……そろそろ、例の件。私達に教えて貰えます?」
「あぁ、分かってるとも。……すまない、席を外してくれ」
羽衣が葉加瀬に声を掛け、葉加瀬は控えているギルド職員達を部屋から出す。
これから話す内容は、一切他言無用で口外禁止の特秘の話だからだ。この話を知っているのは居たとしても王家とアストラス、エルリアや少数の他のギルド長だけだ。
「……分かっているだろうが、この話を誰かに話せば……」
「分かってるとも、即刻お縄なんでしょ?」
「端的に言えばそうなる。まぁ、君たちはそんな生半可な覚悟で来てるわけじゃ無いのだろう?」
「……どこまで見透かしてやがる、テメェ」
葉加瀬の鋭い目。千里眼のように、葉加瀬は羽衣達が何故この街にきたのか、何故こんなにガルンディアの気性が荒いのか、全てを見透かしているような目をしていた。
「それじゃあ、始めようか」
防音設備が完璧にされた部屋で、極秘の話が行われる。立っていた葉加瀬が緋月の隣に座り、三人に向かい合い、話をし始める。
「つい先日にギルド本部から届けられた文書に、帝国出身の奴隷商が、この街オリアに真っ直ぐ向かっている事が書かれていた」
「……あとどんくれぇだ」
「二週間と言ったところだろう」
先程よりも大人しくなったガルンディアは食い入るように、その話を真面目に聞き始める。帝国の奴隷商。帝国は王国ほど奴隷制度に力を入れていない。なぜなら、頑張った者が偉く頑張らなかった者が底辺とされる国なのだから、奴隷とは頑張らなかった者達なのだ。
それに対して王国は、皆平等にして生まれた時から人権を持ち互いにそれを尊重し合える事ができるそんな種族、と法で定められているように、奴隷制度にも孤児院にも力を入れているのだ。王国では奴隷商なんて無い。と言うか出来ないのだ。だからこうしてたまに、国を後ろ盾に奴隷を売りに来る、他国の奴隷商が後を絶たないのだ。
「仮に、その奴隷商が来た時。ギルドは何をしてくれるの?」
「……」
ギルドは大体的に見ればNGOのような非政府組織だが、本部は王国にある。そこからいくつかの支部にわかれて設置されているのだ。
そして問題は、本部が王国にあると言う事。緋月達が奴隷商を攻撃しよう者なら、帝国は自分に都合が良いように解釈し、戦争をおっ始めるだろう。あの狡猾な国ならやりかねないのだ。
だからこう言う事柄に対して、ギルドはあまり力を入れられないのだった。だが、緋月達は例外だ、
「……全面的なバックアップ。並びに、冒険者を集め奴隷商を完膚なきまでに潰す事。それが今回、このギルドとギルド本部が決めた案だ」
『――⁉︎』
三人は同時に驚いた。常に傍観を貫くギルドが自ずから率先して事に対処すると言うのだから。
「これまた、凄いね」
「……ボク達も、彼らのしている事に怒っていないわけがないだろう? 帝国側には正当な理由をつけてやるつもりだ。それに、この街には奴隷商を許す輩はいないさ」
「どうして断言できるんですか?」
「……だって、ここはかの【英雄】の始まりの地であり。次代の【英雄】の始まりの地なんだから――」
――英雄は許さない。許すわけが無い。
これは決めつけでも何でも無い。ただただ、緋月が見てきた【英雄】という人物が何をするかを知っているからだ。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
この世界にも、残念な事にもちろん奴隷制度があります。ですが、【英雄】が生まれた世界に悲劇は必要ありません! きっと葛葉がどうにかしてくれます!(他力本願)
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