十三話 ボス戦はおわり、労いが待つ
労い……一体なんでしょうかね!
葛葉はLv.2にランクアップした時に、身体の強化付与魔法を顕現させたのだ。
「……ふっ、あれが付与魔法じゃと?」
葛葉の姿を眺めながら鬼丸は呆れ気味に笑った。二歩三歩、歩いただけで、五十メートルはあった『ミノタウロス』との距離がゼロになる。
それに付与魔法の大体が、剣や防具、攻撃手段に用いる武器に付与するのが多い。その点葛葉が顕現させた、自身の体に炎系統の魔法を付与する、という魔法は前代未聞だった。
葛葉は一歩を踏み出してから、脚に力を込めて飛躍した。宙に浮きそして落ち始める。葛葉は核部分にナイフの切先を向ける。狙うは落下の勢いを使った刺突。視界の端では律が『ミノタウロス』の脚を一文字斬りし二度と歩けないような傷を作っていた。
「……ぇ!?」
落下し始め数秒経った頃、『ミノタウロス』の太い腕がゆっくりと大鉈を手に取り、葛葉へ刃を向けた。落下中の葛葉には何も出来ない。流石の『想像』でもアニメのように空中で攻撃を避けるのは不可能だった。
「まずっ――‼︎」
あと数秒で刃が葛葉を縦に二等分する寸前。鈍く生々しい、骨が折れる音が聞こえてきた。
「――何処を見ておる?」
ふと声の方へ視線を向けると、金棒を全身全力で振り払った鬼丸の姿があり。その直ぐ横には逆方向に折れ曲がった『ミノタウロス』の腕があった。
「わしを無視とは……死にたいのかのう?」
『ミノタウロス』は死に際、最強の鬼の不敵な笑みに怯えながら、核を穿たれた――。
――魔獣は核を破壊された場合、魔力の粒子の粉塵となり掻き消えるのだ。だから本来、冒険者達はドロップ品が欲しいがために、魔核を破壊せず頭部や心臓を破壊するのだ。
「……あ、角」
「ほほう、彼奴め良いものを遺して逝きおったのう!」
粉塵の中、落下の衝撃に倒れてしまい粉塵の下で尻餅を付いていた葛葉が顔を出すと、真横に黒色の角が落ちていた。
「確か、『ミノタウロス』の角って結構高価ですよね」
「え? ホント⁉︎」
「……一本で三十万フェルですね」
「マジで!?」
まさかの金額に、葛葉は上擦り大きな声で驚愕を露わにする。
五万フェル分と今月分のお金をこのクエストで稼ごうと思っていたのだが、五万フェル払ってそのお釣りで一ヶ月は余裕で食い繋いでいける金額だ。これぞ正に棚から牡丹餅。 『ミノタウロス』の角を売り、このクエストの報酬を貰えば当分クエストを受けなくて済む。
「……そうなったら。ちょ〜大切に持って帰んなきゃ!」
そう葛葉が意気込むと、本日三回目となる大扉の横にスライドする音が、ボス部屋に響き渡った。
四人は大扉の方へ視線を向けると、無数で色とりどりの触手が待ち切れんと――まるでセールの品を奪い合う主婦のように、四人に伸びてくる。
緑に赤、青に黄色。金に銀、銅に虹。珍しいのも居れば、散々追いかけ回されたのも居た。
『…………………』
その地獄のような光景に四人全員が沈黙してしまうのは無理ないだろう。
「大切に持って帰るのじゃな?」
そう鬼丸が、葛葉の肩に手を置き聞いてくる。ガガガと、そう言われた葛葉は首を錆び付いたロボットの様に、鬼丸の方へ向ける。鬼丸はなんともまぁ嬉しそうな顔でこれから起こることが楽しみと言った表情をしていた。
「……無理でしょ」
目の前の『スライム』の数に表情を青くしながら葛葉は事実を呟くのだった――。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
労いは触手による全身マッサージでしたぁ! これ以上ない労いですよね!(洗脳済み)
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