第二話 Lv12とLv9が恐るるもの
一体それは何なんだ!?
「――良い加減仕事したらどうなんです?」
湿った髪を五十鈴にドライヤーで乾かしてもらっている中、葛葉が座っている席の対面の席に座って、葛葉をニコニコと微笑みながら眺めてくる緋月に、そう冷徹に言ってやった。
今の葛葉の格好はまぁまぁ際どい格好だ、あの後風呂に入り汗を流した後、部屋に戻ってくると緋月が起きていたのだ。
「そんな事、僕がやろうと思うのかい? 速く起きたのも、葛っちゃんが風呂に入るって言うことを感知したからなのだよ……」
「死ねば良いのに〜(そうだったんですか〜)」
「こらこら、建前と本音が君の名は。ってるよ」
笑顔でサラッと言う葛葉に、あはは〜と緋月も笑顔でツッコミを入れる。そのまま、あははは〜っと二人が笑っていると。
「葛葉! 何処に行っとったのだ!」
ガラッと部屋の扉が開かれ、口元に無数の食べ物のカスを付けた鬼丸が入って来たのだ。
「鬼丸……。もしかして食べてた?」
「ん? そうじゃが?」
「お金は?」
「うッ……」
無数の食べカス、そう無数の食べカスだ。きっと物凄く食べたんだろう、物凄く。
鬼丸はお酒を買った時に、あり得ないくらいに純金の金塊で全部支払った。そう、支払ってしまったのだ。じゃあ、鬼丸はお金に変わる物を何も持っていない。なのに、無数の食べカスが付いてるのだ。
「お・か・ね・は?」
葛葉は渾身の笑顔で、鬼丸の額に己の額をくっ付ける。(葛葉の顔は、勿論笑顔だ。物凄く可愛い笑顔なのだが、その裏に物凄い強かさがある)
サーッと鬼丸の表情が真っ青となり瞳孔が小刻みに震え出す。
「え、えーっとじゃなぁ〜」
「お・か・ね・は?」
「そ、そにょ〜」
言い訳らしい事を言おうと口を動かすが、葛葉の気迫に鬼丸は半ベソを掻き、口籠もりながら喉から声をひり出す。その光景を見ていた五十鈴はため息を漏らし、緋月も鬼丸同様に表情を青くしていた。
「……く、葛っちゃん。成長したって喜ぶべきなのか、敬うべきなのか」
「今後、葛葉様には頭が上がりませんね」
カチッと魔力で動かすドライヤーの電源を切り、五十鈴は緋月に釘を刺した。
「…………うぬ名義で、後払いにしてしまったのじゃ」
「へぇ〜……金額次第では許してあげるけど?」
「……よ」
「よ?」
「四万九千二十八フェル。な、なのじゃ〜……」
瞬間ボウッと禍々しい炎が鬼丸の目の前で灯る。その炎は猛々しく燃え盛り、万物を燃やし尽くしてしまう、とそんな風に錯覚してしまうほどだ。
五十鈴がドライヤーの電源を入れ直し弱の風力を浴びる中、緋月と鬼丸の額から汗が滝のように流れ始める。
『ひ、ひぃーーーー‼︎』
鬼丸と緋月、圧倒的強者である二人が同時に悲鳴を上げると同時に、視界がフェードアウトしていった。
「……ったく」
「葛葉様……少々やり過ぎですよ」
「ふん!」
大きなタンコブを三段に重ねて、正座の状態でシクシクと涙を流す鬼丸。そしてその隣に、何故か鬼丸同様に正座をして涙を流す緋月も居た。再びドライヤーの電源を切り、五十鈴は葛葉の側により二人に哀れな目を向けながら、葛葉に向き直り言ってきた。
「……一万なら、仕方ないで済んだのに。五万……五万かぁ〜」
葛葉の虚な目に睨まれると鬼丸は、獅子に睨まれた小動物のように震え上がる。今の鬼丸は、鬼という要素も、Lv.12という要素も、鬼族の巫女という威厳も、何もかもが家出をしてしまっている。
「……く、葛っちゃん? も、もしよかったら良いクエストを紹介す、するよ?」
「良いクエストですか?」
「う、うん。まだ発見されたばかりだからさ、かなりお金を稼げるよ」
「発見?」
鬼丸同様に縮こまっていた緋月が、恐る恐る手を上げ意見を提案する。正直、葛葉は別に緋月には何も怒こっていない。怒りを超えて、もはや諦めているのだ。
「そうそのクエストはね、ダンジョン探索なんだ――」
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やはりどんな屈強な旦那さんでも奥さんに尻に敷かれてたりしますからね……じゃあ葛葉は鬼丸と緋月の奥さんだった!?
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