第一話 いつもの朝、ちょっと違った朝
【英雄】の自覚を持って、葛葉はこれからの道を歩いていく。
「……またかぁ〜」
すっかり青空が広がる空に爛々と輝く太陽。
カーテンの隙間から照らされる少し暗い部屋で、葛葉はベッドからむくりと起き上がり、ベットで眠る鬼丸と緋月の姿を見下ろした。
スヤスヤと微笑ましい光景なのだが、やられる側は鬱陶しくて仕方がない。もう初夏だと言うのに、平気で抱き付いてくるのだ。
「……うわ」
毎朝毎朝汗だくで起きるのはもうこりごりだ。
「――おはようございます」
汗だくのジャージをどうするか、考えていると、ガチャッと扉が開く音と同時に声を掛けられる。声の人物は勿論、五十鈴だ。
「はよ〜」
「おはようございます。葛葉様」
再び挨拶しお辞儀をする。何から何まで完璧な所作に、もはや見惚れてしまう。おまけにメイド服も着ており破壊力は抜群だ。
「……洗濯物に出しましょうか?」
「…………うん。お願いしようかな」
汗臭いジャージを一瞥して葛葉はチャックを下ろし、ジャージを脱ぐ。じんわりとしたジャージから解き放たれても、汗の不快感は消えずに残っている。
「てか、お風呂入ったほうがいいよねこれ」
「では、タオル等を用意して来ます」
下着姿の葛葉がうヘぇ〜っとうんざり顔をしながら、新しく服を着るよりも風呂の入った方がいいと思い至る。朝から風呂なんて、ここ最近ずっとだ。てか、風呂ばっか入ってる気がする。
「んにゅ……あ、暑いのじゃ〜」
うぅぅと唸りながら、寝返りを打ち顰めっ面で呟くのは鬼丸だ。そりゃ布団を掛けているのだから暑いに決まってる。
そして次には、
「ん、うぅ〜……葛っちゃ〜ん」
掛け布団なんか掛けておらず、お腹を出して寝ている緋月が顰めっ面で以下同文。ただ、呻きながら呟く言葉は全く違う。
(……この人って本当にギャップが凄いなぁ。昨日はあんなにかっこよく見えたのに……)
昨日のあの目に表情。緋月がたまに出す、緋月では無い緋月。だが今は、赤ちゃんのように、スヤスヤと眠る幼女のような緋月であった。自由に奔放に気ままに生きる自由な人だ。
「……」
ペタペタと窓の近くに歩いて行き、カーテンを少し開け放ち、青空を見据える。
【英雄】になると、昨日そう決意した。そして今日から【英雄】として生きていくことになる。
不安、緊張、心配、期待に応えられるのか…………そんなのはもう考えない。
応えれるか応えられないかじゃない、【英雄】となって人を救う。それが葛葉の目指す【英雄】だ。転けても、泥だらけでも、ただひたすらに我武者羅になって走ろう。かっこいいかっこよく無いでは無く、【英雄】として。
「……あ、今日はクエストしないとだ」
澄んだ瞳で澄んだ空を眺めていた葛葉、昨日大分軽くなった財布の中身のことを思い出して、今日のやる事を決めた。
クエストでがっぽり稼ごう――。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
遂に三部も二章に突入ですね! もう全部で何万文字書いたんでしょうかね、いや、いくら書いても足りないかもです!
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