十八話 決めるもの、背負ったもの、求められるもの
今回は中二病満載かもですね!
「葛っちゃん暗いよ〜? せっかく可愛いんだからさ、スマイルスマイル!」
「……」
「……て、茶化す雰囲気でも無さそうだね」
脚をバタつかせるのをやめ、微笑みを消して真顔を浮かべる。葛葉の心境を悟った緋月は、いつものおちゃらけた態度では葛葉の力になれないと、そう直感で分かったのだ。
「何が怖いんだい?」
「……っ。……見えないんです」
葛葉を一瞥し、直ぐに目を逸らして天井を眺めながら緋月は的確に葛葉の思うことを、問いに変え呟く。
葉加瀬が道を示すのなら、緋月は背中を押そう。それが先人に出来ることなのだ。
「暗くて、狭くて……。足元すら見えない程に真っ暗なんです」
「どうしてそう思うんだい?」
「……この世界は世知辛いですよね。日本とは治安は全く違う、人は平気に死んでしまう。それなのに、ちっぽけな力しか持っていない私が、人を助けれる【英雄】になんて……」
「……万人を救う【英雄】なんて、何処にも居ないさ」
「……私に出来ないだけで! 出来る人は……きっと、いるんです!」
「いや、居ないさ」
それは根拠のない上での頭ごなしで否定しているわけではない。見て来たのだ。その【英雄】がどんなに辛い思いで人を救って来たか。
「出来る出来ないではない。不可能なんだ……。万人を救うなんて、きっと神様でも無理さ」
「でも【英雄】は……!」
「君は、【英雄】を美化しすぎなんだ。人は良くそうやって事実を美しく着飾る。でも、それはあったら良いなぁって言う空想でしか無いんだよ」
アニメやハリウッド映画の【英雄】達はかっこよく人を助けているだろう。だが、一人や二人は助けられないのだ。それは世界の所為でも、自分の所為でも無い。誰も悪くは無い。必然のことなのだから。
「これはボクの持論だけどね。【英雄】ってのはね、転けても泥だけになっても、ゴールを目指して走り切った者のことを言うんだと思うんだ」
「……走り、切る?」
「あぁ、君は走り出してすらない。それじゃあ、人を救うなんて出来ないし、ゴールに着くことも出来ない」
「……っ!?」
縁から緋月は飛び降り、スタスタと葛葉の目の前にやって来てガシッと葛葉の手を取り、強引に葛葉の身体を引き寄せた。顔が目と鼻の先の距離になり、真剣な表情の緋月が葛葉の目を見据えて、口を開く。
「走り出さずにウジウジしてるだけの奴に、何が出来るんだ」
ゾゾゾと全身の鳥肌が立ち、嫌な汗がブワッと吹き出す。緋月の見たことない顔や瞳、緋月の聞いたことのない声音に口調。全てが違う緋月の言葉に、葛葉は腰が抜けそうになってしまった。
「……迷う時間なんて、本当は無いんだよ。あるだけ有り難く思いなよ、君は十分過ぎるほどに与えられているんだから」
「……」
緋月の言葉は、葛葉に深く刺さった。二度と抜けないような程に深く深く刺さった。前世でも葛葉はウジウジして何も決めずに、結局何もかもを投げ捨て逃げ出した。
また、逃げるのか。また、暗い部屋で一日を過ごす日々に戻るのか?
……Lv.2になった、強いスキルを与えられた、信頼に足る仲間ができた、背中を押してくれる大切な人が出来た、叶えないと行けない大切な約束が出来た。
こんなに背負っている。なら、葛葉はどうするべきか? そんなの決まってる。
「……緋月さん。ありがとうございます」
「…………ハッ! す、すまない! 少しキツくなかったかい⁉︎」
「いいえ。目が覚めました……」
「……」
窓の下へ歩いて行き、葛葉は月が昇っている夜空を眺めて新たに決意した。【英雄】になろう、と。これは御伽話でもなんでも無い。現実で、酷い程リアルなクソッタレな物語だ。だがそんな物語でも、紡いでいこう。
何故なら―—
――世界は英雄を欲しているのだから――
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
……葛葉、ウジウジしすぎでは? この問題はですね、仕方のないことですね。そういうのが好きなので。
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