十三話 口は災いの元ってね
言って良いことと悪い事がありますよね!
ピチョンと天井から垂れた水滴がお湯に波を立たせ音を立てる。ペチペチと大浴場を葛葉が、タオルをまっすぐ垂らして胸から下にかけて覆い隠しながら、お湯の下に歩いていく。
「……サウナとか建造してくれないかな〜」
身体の汚れを既に洗い流しており、葛葉はお湯に足の指先を付けて入れながら願望を呟いた。お湯があるだけでも十分なのだが、やっぱり整わせたいのだ。前世では葛葉は、まぁまぁ銭湯は好きだった。出掛けることは少ないが。それは『葛葉』の方も同じだった。
「ふへぇ〜〜〜〜〜〜〜……」
お湯に肩まで浸かり、葛葉は物凄く深い感嘆の息を吐いた。ギルドに備え付けられているこの大浴場は、葛葉が前世で二十歳の時に温泉旅行した時に浸かった、どの湯よりも気持ちが良いのだ。
「あ〜……こんな大きいのに、他の人使ってる所そんな見ないな〜」
タイルに手を敷き顎を乗せて、伽藍堂な大浴場を見回しながらふと思ったことを呟いた。今までで、葛葉以外が使ったのだと緋月と律鬼丸と五十鈴だけだった。
「そう言えば、ギルド職員の人達ってこのお風呂使ってるのかな?」
いつも忙しそうな、葉加瀬筆頭のギルド職員達を思い浮かべる。その中には勿論緋月は入っていない、当たり前だが。だが今日は何処か忙しそうだったが。
「――おや? 先客が居たみたいだね」
ガラガラと横開きの扉を開き、仕事を終わらせたであろう葉加瀬がやってきた。
「葉加瀬さん。お仕事終わったんですか?」
「あぁ、私のはね」
葛葉が声を掛けると、葉加瀬は優しい口調で応えながらかけ湯の下まで歩いて行き、手桶を手に取りお湯をすくいマナー良く掛けていく。
「……緋月さんはまだ掛かりそうなんですね」
葉加瀬の言い方で大体予想出来る。葛葉の頭の中では、ふぇ〜とわんわん泣きながら仕事を終わらせようと躍起になる緋月が想像されていた。日頃まともに仕事しないから、肝心な時に限ってその皺寄せがやってくるのだ。
「失礼するよ」
掛け湯を終わらせて葉加瀬はお湯に入ってくる。すすすと葛葉の隣に移動して、ふぅ〜と疲れを吐き出すのだった。
「お疲れみたいですね……」
「まぁいつもの激務に比べれば、今日のは比較的軽かったがね」
綺麗で色白の肌、キリッとした目元に大きい隈。葉加瀬は美人なのに、その隈が完璧な美人にさせていないのだった。きっと隈を無くしたらモテたであろう。いや、もう既に憧れているギルド職員は居ると聞くが。
「……葉加瀬さんて意外と大きいですよね」
沈黙した雰囲気をぶち破ったのは葛葉の言葉だった。葛葉が向ける視線の先には、たわわに豊潤に実った大きな二つの果実が浮いていた。
「葛葉ちゃんも持ってるじゃ無いか」
「私はそんなに大きく無いですよ」
自分のカップ数はC。至って面白味もない。なんならAとかだったらまだ面白かったのだが。だがまぁ、世の中にはAよりも下のサイズの人が居るのだ。
下の名前の頭文字はHだと言うのに……。
「……この話は止めにしといた方がいいだろうね」
「何でしょう、私も無性にそう思いました」
ピチョンとまた再び水滴がお湯に滴り落ちた。
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ここだけの話、緋月のいるギルド長室にはこっそりと風呂場を覗けて声も聞ける水晶があるんですね〜。
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