七話 買い物すると、なんでか後悔してしまう……
皆さんはそんな経験ありますか!?
「それじゃ、買っちゃおうか」
「やったー! なのじゃ〜」
鬼丸は試着室に戻り、試着していた服を脱ぎ始める。その間、葛葉は椅子を元に戻してから財布を取り出して、手持ちの金額を確認する。四万ちょいと言ったくらいだろう。そうそう値が張るような服でも無いだろう。葛葉はそう思うのだった――。
「――えー、42,168フェルになりまーす」
「…………高っ!?」
レジの店員の言葉に葛葉は驚いてしまった。何故なら葛葉の財布の中に入っている金額の、九割がさよならバイバイするのだから。
「まぁ妥当じゃな」
葛葉の支払いを横から見守っていた鬼丸が、服の値段に顎に手を当てながら顔を縦にコクコクと振り、歩み寄りながら呟いた。
「……言ったからには、買うしか無いよね〜」
はぁと深くため息を吐き、葛葉はシクシクと財布の中から紙幣五枚と硬貨数枚をカルトンに置いた。元々軽かった財布の中身が、更に少し……いや、だいぶ軽くなった気がした。
「ちょうどお預かりします。こちらクーポン券とレシートになります」
店員が渡して来たそれらを受け取り、薄れに薄れていた異世界感が更に薄れ、葛葉は再びため息を吐いて服屋を後にするのだった。
「明日クエスト行かないと……‼︎」
すっかり軽くなってしまった財布を握り締めて、面倒臭いのと使命感の半々で葛葉は力強く言う。それを服を抱き抱えて嬉しそうに、葛葉の後を着いていた鬼丸が葛葉と並び、
「明日は存分に暴れて良いのか!?」
と満面の笑みで問い掛けてきた。
鬼丸のそんな表情に、葛葉はかなり複雑な顔で受け止める。
鬼丸の強さは痛い程思い知った。二度と戦いたくは無い。【英雄】だ何だかんだ言われても、葛葉は結局の所まだまだ駆け出しの新米なのだ。次鬼丸がまた、先日のように暴れ出したら手のつけようが無い。
「……前みたいにならないなら」
「何を言うておる? わしだって、そもそもあんな策は使いとうなかったのじゃ!」
「じゃあ何で?」
プイッと顔を背ける鬼丸に、葛葉は鬼丸の真意を問いただす。がブツブツと鬼丸は何事かを呟くだけであった。はぁ〜と葛葉が本日何度目かのクソデカため息を吐いた時、鬼丸があっ! と声を上げて葛葉達が向かっていた方向とは違う方に走り出した。
「ちょ、鬼丸?」
走り出した鬼丸の背中を見ていると、とある店へと入って行ってしまった。目線を少し上げ、店の看板のような物を見ると文字が書かれていた。達筆な文字で、この世界の公用語で『世界一の酒屋』と。
「……まぁ良いか」
この世界では基本的に酒は未成年でも買えるのだ。と言うか、買うだけなら年齢は関係無く買えるのだ。だが、法で定められている年齢未満の者が飲んだら即アウト、憲兵が家までやってきて連行されるだろう。
「……んでも16歳から飲酒はいいんだっけ?」
ので、葛葉は買ってすぐに飲めるのだ。久しぶりに飲みたくなってきたかも、と呟きながら鬼丸が入って行った店の中に葛葉も足を運ぶ。
店内は穏やかな雰囲気で、ぶら下がっている魔石灯は淡い光を放っており自然と心が落ち着く。壁沿いに置かれてある棚には、酒瓶が一本一本丁寧に置かれていた。
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高くないお買い物でも後々、あぁ……何で買ったんだろ。ってなりますよね!? 自分はなりますね!
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