四話 面倒な話
ギリギリになってしまいすいません!
「くぅ〜〜〜〜! 葛っちゃんとイチャイチャしちゃって! 羨ましいわ、畜生!」
と地団駄を踏むもう一人の子供が居た。それは関係者以外立ち入り禁止の扉を少し開け、食堂でイチャコラしている葛葉と鬼丸を恨めしく眺める緋月だった。
「本来ならボクが、あ〜んってして貰ってたのに!」
「そんな本来は無くて良い」
「って、わぁ⁉︎ びっくりした〜」
鬼丸同様荒れ狂う緋月を腰に手を当てて眺めていた葉加瀬がようやっとツッコミを入れた。あの後、緋月がNTR計画を考えると言い部屋を出て行き、残った葉加瀬はギルド長室で事務仕事――本来なら緋月がやるべき仕事――を片付け緋月の後を追ったのだ。
自分の大量の仕事を終わらせても、他人の仕事をやらなくてはならないと言う、この世界に労基があったら今にも駆け込みたいと緋月を見ながら葉加瀬は思う。
「……それよりも」
「……ん? 何これ」
「私では片付けられない仕事さ」
緋月の顔をこちらにグイッと向けて、葉加瀬は懐から二枚の用紙を取り出した。その二枚は決して葉加瀬の一存で決めて良い物では無いのだった。
「……冒険者の派遣に? 帝国国籍の奴隷商の対策案立案書の確認?」
「あぁ。ギルド本部からだ」
「へぇ〜でも何で冒険者の派遣? しかもLv.4以上のなんて……」
「つい先日に鬼族の巫女騒動があったばかりだからだろうね。それに、一度魔王軍がこの地にやって来ているし。この街の戦力を万全にしたいのだろう」
「へぇ〜……。んまぁ、取り敢えずOKかな〜。……んで、あとは」
冒険者の件が書かれている方の用紙を、葉加瀬に渡してもう一方の用紙に目を通す。こっちは、目を通さずに話を聞くだけで大事なことだと言うことは重々理解できる。いくら緋月でも、気軽にOKだなんて言えはしない。もしかしたら、王国と帝国との戦争が勃発するかもしれないのだから。OKなんて言ったら、A級戦犯扱いにされるだろう。
「……面倒だなぁ」
「全くさ」
「帝国もよくこんな事黙認するよね〜。……下手を打てば、王国と王国との結び付きが強い中立国との戦争になるってのに」
「王国がそれを望んでいないと、そう思い込んでいるのだろう…………愚かだ」
対策案の欄に入る前に、帝国国籍の奴隷商が行なっている凶行が用紙には書かれていた。エルフや獣人、魔族や人間と、種族見境なく値が張る者は全て強引に奴隷にすると言う、非人道的過ぎる行いばかりをしていた。
そしてその大半が女性や幼い少女と、物好きが喜ぶ奴隷しか居ないのだ。
「はぁ、胸糞悪いね。本当に、同じ思考回路をした知的生命体なのかなぁ?」
「一緒にしないでくれ。私らはこんなゴミどもとは全くもって違うさ」
緋月の言葉に、少々怒りの籠った声で葉加瀬は訂正を求めた。それ程までに、奴隷商がやっているとは、唾棄すべき行為なのだ。
「……外交問題でもあるってのに、なぁんで王国政府じゃなくてボクらが対策しないと行けないんだか……」
食堂に続く扉を閉めて、緋月はギルド長室がある方向へ歩き始めながら、グチグチと文句を垂れる。
王国と帝国の仲が悪い理由は、言ったって簡単だ思想の違いだけだ。帝国は競争主義と言う思想を持っており、頑張らないと人権を与えられず、頑張りすぎても恨みを買い殺されると言った国なのだ。超簡単に言うと、行き過ぎた資本主義だ。そして王国は超優しい資本主義なのだ。
「腑抜けた政治家しか居ないもんなぁ……」
「結局決めるのは国王なんだから、外交も政治家だけでは決められないんだろう」
「……だからって、非政府組織なギルドに国家間の面倒事を押し付けられるなんて、一体全体どうなっているんだか」
「アストラス様は基本的に優しいからね……。何でも引き受けてしまうのは、あの方の悪癖だとは思うが」
普段の緋月からは想像も付かないような言葉が話される。葛葉がここに居たらきっと耳を疑っていただろう。そしてあっという間にかギルド長室前に着いてしまった。
「……取り敢えずは、葉加瀬の意見も聞きたいな」
「私の意見? 役に立つかどうかは分からないが?」
「ボク一人で決めるのもかなりの重荷だヨォ〜。ね〜? 一緒にやろうよ〜」
「……仕方がないな。…………分かったから引っ着かないでくれないかな?」
葉加瀬の腰に手を回して、木に止まって鳴く蝉のように、足に引っ着く緋月に葉加瀬は間を開けてひっぺがしながら言うのだった――。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
物凄いギリギリになってしまい申し訳ありません! 忘年会のような催しをしていたら帰ってくる時間が遅くなってしまったので……。
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