三話 賑やかな朝食
メリークリスマス!
「葛葉〜」
「……」
「葛葉〜、聞いておるのか〜?」
ギルドにある食堂で、葛葉達は朝食を摂っていた。行儀の良い食べ方をする五十鈴とは異なり、鬼丸はみっともなく葛葉にあ〜んと口を開いていた。
(周りの視線が痛い! なんで私がこんな幼女と……)
「……なんか失礼なこと思ってないかのう?」
うんざりと表情を歪める葛葉に、口を開かせていた鬼丸が言う。そんな二人のやり取りを、朝食を食べながら見ていた五十鈴が、初めてため息を溢すのだった。
「……伴侶だからって甘えすぎじゃない?」
「おかしいかのう?」
「うん! 凄くおかしい!」
「く、食い気味じゃな……」
頬杖を付き、鬼丸の開けていた口に食べ物を放り込む葛葉のぼやきに、鬼丸が反応する。すると、葛葉が少し怒りを込めて返した。
「第一、まだ伴侶じゃないし!」
「……ん? それはいつか、なってやるってことじゃな⁉︎」
葛葉の揚げ足を取り、勝手に良い風に解釈した鬼丸が狂喜乱舞しそうになるのを、
「いや、皆無」
それを予想していた葛葉が無表情で踏み躙るのだった。やいのやいのと言い争う二人、注目が次々と集まる二人に、五十鈴が頭を抱え出した頃、クイクイと五十鈴の服の袖を誰かが引っ張ったのだった。
「……律様」
「様は良いですよ……それでこの状況って……?」
どうやら引っ張っていたのは律だった。先日、ボッコボコにされた相手と、尊敬信頼している葛葉が言い争っている状況に、困惑した律がその場にいた五十鈴に状況説明を求めたのだった。
「……痴話喧嘩と言うもの、でしょうかね?」
言い争う二人を一瞥し、五十鈴が口籠もりながらも答えた。あながち五十鈴の言葉も間違ってはいなそうだ。律も二人を見て、確かに〜と思うのだった。
「全く……誓いの証があるだろうに」
「これ、どうにか出来ないの?」
首元に出来ている黒色の印。刀がバッテンの形に描かれており、その上に鬼の顔のような物も描かれた印が、葛葉の首元に出来ていた。
普通にタトゥーみたいだ。別にタトゥーが嫌だとかじゃ無く、普通にこの印が嫌なのだ。伴侶ではないのに、何故伴侶の証を身体に刻まれないといけないのか。
「出来んの〜。証を破棄するには、次は深い方のキスをしなくてはのう〜」
「なっ――⁉︎」
ボッと真っ赤に染まる葛葉の顔。先日の鬼丸とのキスでもかなりドキドキしたのだ。それなのに、次はディープって……絶対に無理だ。真っ赤になった葛葉を、にししと揶揄った鬼丸が口元を抑え笑いを堪えるように眺める。
「……? なんで葛葉さんは真っ赤になってるんですか?」
「…………ぇ? あー……はい。まぁ、知る必要は無いですよ」
そんな葛葉を眺めるもう二人、律と五十鈴だ。律は葛葉が真っ赤になっている理由を五十鈴に問い掛けるが、意味を知っている五十鈴は律にはまだ早いと判断してそう返した。
「つまり認めるしか無いってことなの……⁉︎」
羞恥から戻るとドサッと両手両膝を床に付け、葛葉は絶望したかのような声音でそう呟いた。
「そうじゃな!」
そう言いガハハハと高笑いをし始める鬼丸。葛葉はため息を吐き四つん這いから立ち上がり、首元の印に手を置いた。
Lv.2な自分より実力が六倍の鬼丸の伴侶になると言う、なんともまぁおかしなことだ。レベルを金で言えば、玉の輿だろうか。
「……あぁ、安心するが良い。この伴侶の誓いをするとの〜、わしのレベルも葛葉と同じになるのじゃ」
「…………………………え?」
余りの衝撃に、葛葉の脳が理解するのにかなり時間が掛かった。葛葉と同レベルと言うことは、今の鬼丸のレベルは2。緋月よりも葉加瀬よりも弱くなっているのだ。
「ま、Lv.2と言うてものう。Lv.3になるのにあと少しくらいのステータスじゃ」
「いやいや、そんな軽く言うことじゃ無いでしょ!」
レベルとはその人の努力そのもの。Lv.2に昇華するだけで、葛葉のように数々の死線を潜り抜けなくてはいけないのだ。ならLv.12になるには何十年も掛かり、何百回も死線を潜り抜ける必要があるだろう。その数々の努力なのだ、レベルと言うのは。
「なんじゃ、心配してくれるのかのう?」
「し、心配というか何と言うか。……鬼丸は良かったの?」
「ん? 良かったとは、何がじゃ?」
「レベルだよ、12から2だなんて」
茶化すかのように葛葉の言葉に、おちゃらけた雰囲気で言葉を返す鬼丸。どうやら鬼丸にとってレベルというのはどうでも良いもののようだ。
「……ふむ、ディープキスすれば戻るのじゃ。別に構わんじゃろう?」
「……しないよ?」
「何故じゃ、何故じゃ、何故なのじゃあ〜‼︎」
地団駄を踏み荒れ狂う鬼丸。だが、何故か腑に落ちてしまう。まぁ、外見が外見なのだから当たり前か。子供のような、Lv.12の化け物。ギャップが凄過ぎる……。この先、葛葉は鬼丸とやっていけるのか不安になる。
(私……子供苦手なんだけどなぁ〜)
『葛葉』の方でも、今の葛葉の方でも子供は苦手だ。鬼丸は子供では無いはずなのだが。
「はぁ……どうにか頑張るしか無いか」
この先のことを考えると、頭を抱え込みたくなるがもう諦めて、鬼丸と仲良くやっていこうとそう思うのだった。
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皆さん! 今日はイエスキリストの誕生日ですよね!? 聖なる夜ですよね! 初夜じゃないですよね!
血涙を流しながらこの話を投稿しました……皆さん幸せな夜を!
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