一話 ゆっくりとした目覚め
戦いすぎやろ……。
パラパラとページが捲れ、閉じていく。最後にはパタンと古びた表紙が倒れ、本は栞を挟まれた状態になった。
長い長いプロローグが終わり、次の章から本編が始まる。楽しみで仕方がない、胸が躍りページを早く捲りたいと、ウズウズして堪らない。だが、既に二十五万文字も読んでいるのだ。休みなく、水分補給も無くだ。
だからここら辺で少し休憩をすることにしたのだ。まぁ、水分補給をせずとも死にはしないし、食べ物を食べなくても、私は永久に生けるのだから。暫く席を外してから、少しゴージャスな椅子に座り直し、肘掛けの近くにある小さなテーブルの上に紅茶を置き一口啜り、膝の上に置いていた本のページを続きから捲り始めるのだった。
小鳥達の囀りが窓を通して聞こえてきて、太陽光が――昨日の曇天が嘘の様な快晴が広がる空から――カーテンの隙間から部屋を照らしてくれる。
そして、ベッドの上で唸りながら起きようとする一人の少女が居た。少女――鬼代葛葉は、この世界にやってきたことにより、自然に午前七時に起きるという癖が付いてしまい、朝早く起きれるようになったのだ。唸り声を上げながら起きるのは、もはや毎日の日課の様なものになっていた。
「……………………重いし、鬱陶しい」
寝起きのためにボサボサの髪、死んだ魚の様な目で葛葉は寝起きの掠れ声で愚痴を溢した。
今、葛葉の腕には二人の幼女――否、五百年を生きている鬼族の巫女。鬼丸(大嶽丸)と、この世界に五年前にやってきた元高校生で、現在はオリアの街の代表格の、八重樫緋月――が腕に抱き着いていたのだった。緋月はちゃっかり胸に手を置いている。
「……折ってあげようかな?」
ピクピクと口角を痙攣させ、拳を強く握る葛葉は緋月の手を見ながらそう言うのだった。鬼丸は、別にどうとも思わない。重いと鬱陶しい以外のことは……。何故か逆に安心するのだ。
「はぁ、この二人……どうにかなんないかな〜」
げんなりとしながら葛葉は独り言を呟くが、どうにもならない。この街では間違いなく最強のツートップ。鬼族の巫女であり、千年戦争の初期に猛威を振るった現在Lv.12の鬼丸。そしてこの街の象徴たる組織である、ギルドの長でありLv.9の緋月。はっきり言ってどうこうできる相手ではない、絶対に!
「おはようござい……ます。葛葉様」
こんこんと三回ノックの後に、ゆっくりと開けられる扉。スタスタと背筋をピンと伸ばしてあり、綺麗な姿勢で歩きながら入ってきた、美女――葛葉に献身的に仕える鬼族の娘の、五十鈴であったら。
「おはよー…………何かない?」
「……大変ですね」
「本当だよ〜……」
一度葛葉を見て言葉を詰まらせた五十鈴に、葛葉はジトッーっと目を細めて二つの錘を五十鈴に見せる。すると、乾笑い気味に五十鈴は葛葉に労いの言葉を掛けるのだった。
「ん〜……ふぁ〜〜〜〜。…………起きておったのか」
「鬼丸、おはよう」
「鬼丸様、おはようございます」
「おはようなのじゃ〜」
眠気眼を擦りながら、葛葉同様髪を乱れに乱れさせた状態の鬼丸が、葛葉を見て開口一番そう言い、二人に言葉を返す。こうしてみると、寝起きの可愛い幼児にしか見えないが、国を滅ぼせる力を持っているという……何という矛盾。
「……また寝るの?」
「そうなのじゃ〜、わしは寝ても寝足りんからのう〜」
ポフンとベットに体を横にし倒れ込み、縮こまりすーすーと寝息を立て始めた鬼丸に、葛葉が声を掛けた。流石の葛葉も最近は二度寝はしていない。のに、こうもあっさり二度寝するとは、自由すぎる。
「まぁ良いけどね〜。……さて、問題は」
右肩の錘が外れて軽くなり、ゆっくりとベットから降りて葛葉はギロリと、今も葛葉の胸に手を置きながら寝ている緋月を睨め付けた。勿論のこと、反応がある訳なく……。
「……」
ゆっくりと葛葉の右手が、緋月のアホ毛へと伸びていく。そして、ガシッとアホ毛を稲の如く掴み、窓へと狙いを定める。
すると、五十鈴がサササっと移動して窓を全開にしてくれたのだった。
「……死ね、変態」
窓の外に投げる前に、まだまだ眠っている緋月に向かって葛葉は、ドMの人も流石にドン引く程の声音で、静かに淡々と呟き、全力を持って投げたのだった。そして投げてから数秒して、
「――あぁあああああああああああああああああっ⁉︎」
という断末魔が聞こえてきたのだった。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
ついに第三部。ここで来れたのも皆さんのおかげです!
そして祝! 総合評価ポイント500達成!!
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