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九話 少女の慟哭は聞こえない

これで二章も終わり……長いようで短い。あっという間に展開していきますね。

これからどんどん面白くなりますよ!!

「……どこだここ」


暗く深い深い闇の中。葛葉は自分が落ちていく感覚を感じながら、どこまでもどこまでも落ちていく。

ここが何処なのかも分からない、分かろうとしないのだ。自分の脳が意思が精神が。

分かるのが怖い、今まで味わった事がないほど怖い。いや、怖いのでは無い。嫌なのだ。

認めるのが、理解するのが、何がそうさせるのか。精神なのか意思なのか、一体何が葛葉にそうさせるのか。それすらも分からず、闇に落ちていく。


『……兄さん』


突如声が暗闇に響き、暗い暗い闇に暖かい色の光が広がっていく。その声は聞き覚えがある。

愛おしくて愛おしくて、ずっとそばに居たい、ずっと声を聞いていたい。ずっとずっと一緒に居たかった、ずっとずっと顔を見たかった、声を聞きたかった、柔らかな手に触れていたかった。

けど、思い……出せない。その相手が誰で、どんな顔をしていて、どんな容姿だったのか。何故、何故思い出せないのか。

思い出したいのに、思い出せない。大事だった人のはず、この世の全てを差し置いても守り救い大事にすると。そう誓った人の筈だ。


「なんで! 何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で‼︎」


葛葉の声は届かない、誰にも届かない。葛葉の伸ばした手は届かない、誰にも届かない。誰かを救う手も何も掴めない、掴まない。

空っぽだ。空っぽなんだ。葛葉に何か出来ることなんてない。葛葉という器は空っぽだ。

暖かい色の光は終わりを告げ、再び真っ黒な世界で葛葉は落ちていく……。

———その時だった、葛葉の頬に冷たい何かが落ちる。どうやら水だ。いや、水ではなく涙だ。

同時に世界が変わる。落ちていく世界ではなく、一本の茨の道しかない世界に変わる。一本の茨の道は遥か先、地平線の先まで続いている。その道の真ん中で一人蹲り、すすり泣く少女が居る。

「……君は?」


問いかけても返事は無い。少女はひたすらに泣く。葛葉は少女に近づこうとして手に違和感を感じた。


「……これは」


手の違和感の正体はナイフだった。刃は長く、鋭い。人なんか容易に殺せる。手放そうとしても手放せない。だがまぁ、気に留めることなんてない。

ナイフのことを無視し葛葉は一歩、足を踏み出した。と同時だった。


「――ッ⁉︎」


全身に痛みが走り傷ができる。傷は切り傷程度、だが痛みは骨折よりも痛く、激痛過ぎるほどだ。


「……な、何が⁉︎」


痛みに唸りながら下に向けてた顔を上げる。そこには幾多の影に指を指される少女が居た。

影の数はキリが無い。何百何千何万、いや何兆だ。影達は口なんてないのに何事かを呟いている。ように感じる。


「……こ、殺さなきゃ。あいつを、殺さなきゃ」


影達が更に増えると同時に葛葉は呟き始めた。手に持ったナイフを握りしめて、一歩また一歩と。

葛葉は底の無い殺意、恨み、憎み。無尽蔵の負の感情が湧き出てはそれが少女に向く。殺さなくては、あの少女を殺さなくては行けない。出なければこの感情に押し殺されそうだった。

少女に凶刃が届くまでに後一歩。とそこで少女が振り向いた。宝石のような瞳から涙を流し、何かに押し潰されそうな少女の顔が、葛葉を我に返した。


「……私を殺して!」


少女は葛葉に懇願してきた。我に帰った葛葉にそんなことなぞ出来はしない。誰よりも【英雄】に憧れ、誰よりも【英雄】になりたいと願う葛葉には出来ない。

葛葉は何も出来ない。何もする事が出来ない。何かを成し遂げる事が出来ない。出来ないづくしの葛葉は、役立たずだ。

闇が少女を飲み込んでいく、足が闇に呑まれていく。それは徐々に徐々に少女を飲み込んでいく。


「どうして? 何で、何で‼︎ ……私を殺してくれないの!?」


黒い瞳から涙が溢れて、頬を伝い流れる。何も出来ない葛葉は、ただ立っているだけ。少女の涙さえ拭えない。


「なっ!?」


そんな葛葉に耐えかねた少女が、葛葉の手からナイフを取り自分の胸に突き立て、そしてそのまま胸に刺した。少女は倒れ胸からは血が溢れ出す。


「な、何で‼︎」


葛葉は倒れた少女のナイフを抜き投げ捨てる。そして思いっきり力を手にこめて止血を試みるも、出血が酷い。


「きっと……きっと……」


息も絶え絶えの少女は枯れそうな声で葛葉に頼む。


「私を……絶対に……殺して」


そう言い葛葉に手を伸ばし懇願する。葛葉は震える手で少女の手を掴むと、


「俺が……! 俺が絶対に‼︎ お前を救ってやる‼︎」


そう誓った。




「――ッ⁉︎ はぁ……はぁ……」


葛葉はまだ暗い部屋で目覚め、息を切らしながら右手を握る。不可解な夢を見た。


「何だったんだ。一体」


葛葉は呟き右手を見る。


「救う……誰が? 私が、救うんだ」


何かを掴もうとしていた手を葛葉は、誰かの手を力強く掴み明るい未来へと導けるように握った。

読んでいただき、ありがとうございます!

これからも読んで下さる方々に、面白い! もっと読みたい! と感じれるような物語を紡ぐので、どうか最後まで付き合ってくれると。

私的には大変嬉しいです。

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