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三十六話 月下、満月の下で……

これで二部も終わりですね。

プツンと音を立てて切れる映像。後には何も写さない綺麗な水晶のみが残る。ギギギと椅子の背もたれに、体重を預けながら深々とため息を吐くのは、冒険者組合会長アストラスであった。


「ふぅ、とりあえずはどうにかなったのかのう」

「はい、緋月と葉加瀬殿の活躍により魔獣の大群は壊滅。残りの中型が街に侵入しましたが、これも問題なく討伐を致しました」

「住人に負傷者は?」

「居ません。ギルドの冒険者達にも死者は出ていません」

「そうか、それは何よりだ。……倒壊した家屋はどうなった?」

「はい、それは全て巫女が元通りにしました」


散々たる状況であった街も、どうやら問題ない様子だ。何事も丸く治りつつある。のだが、一つ気掛かりなことがあった。


「……あの少女、名を鬼代と言ったな?」

「はい。鬼代葛葉、何ヶ月か前にオリアの街にて冒険者登録をしています。のらりくらりとクエストを行い、先の戦いでLv.2へレベルアップしました」

「そうか。鬼丸か……」


月光が刺さる小窓の方へ身体を向けて、アストラスはため息と共に昔を懐かしむように息を吐くのだった。それを見ていた美丈夫――報告のために訪れていたエルリア、はアストラス同様懐かしき日を思い出す。


「彼女の動機は?」

「……確かめるため、だそうです」



 ――数時間前――



「じゃ、問答を始めようか」

「何じゃコレは、飯はあらんのかのう?」

「昔の刑事ドラマじゃないんだ、お腹が空いてるなら次の尋問に答えてくれないかい?」

「仕方がないのう〜……んで、うぬはわしに何を尋ねたいんじゃ?」


オリアの街に備え付けられている屯所にて、憲兵の警護がされている状態でやって来た葉加瀬は開口一番そう言って来たのだった。あの後、満身創痍にも程がある葛葉が中型魔獣を討伐してくれたお陰で、住人に死者は出なかった。そしてその後すぐに、緋月に連れられ今はギルドで手当を受けている。


「何故こんなことを?」

「見定めるためじゃ」

「……葛葉ちゃんをかい?」

「あぁそうじゃ。わしの伴侶は、【英雄】に足る器かどうかをのう」


机の上に肘を乗せ、手を組みながら葉加瀬は鬼丸に問うていく。そして鬼丸も、葉加瀬の問いに詰まることなく、ハキハキと答えていく。


「死者は出しとらんはずじゃが?」

「あぁ、誰一人出てなかったさ。骨が折れたり、魔獣にやられたりで、重症者は十数人出たがね」

「そんなのは知ったことじゃないのじゃ」


そう言い鬼丸はハッと鼻を鳴らして、腕を組んで机に足を乗せ、ギコギコと椅子でシーソーを始める。


「……まぁ、うん。そうしようか……。それで、見定めると言っていたね?」

「そうじゃが〜?」

「どうだったんだい? 葛葉ちゃんは、【英雄】に足り得る器だったかい?」

「……それはもう決まりきっておる――」




「――【英雄】だ、とのことです」

「……そうか」


時間は元に戻り、再びアストラスとエルリアの会話に戻る。エルリアは葉加瀬からの情報をアストラスに報告しているだけだ。だがそれなのに、その一言のみ、鬼丸本人が言ったかの様だった。


「ならば、その【英雄】を信じよう。手紙を出してくれるか?」

「はい、どういった旨の手紙でしょうか」

「巫女に認められた事を我々が認め、冒険者レベルアップ検定試験の免除と今後の活躍を期待している旨を頼む」

「はい。了解しました」


エルリアは綺麗な一礼をして、冒険者組合会長室から退室するのだった。




「……ふぅ、今日は疲れたな〜…………いや、疲れたって程度じゃ無いか」


葛葉は自分で言っときながら、自分でツッコミを入れてしまうほどに疲れていた。幸いにも身体に目立った傷は無く、ただスキルの乱用による疲労が半端なかった。今は身体を動かすだけで、かなり身体に堪えてしまうのだ。


「――葛葉よ」

「……鬼丸……さん? ちゃん?」

「気安く呼ぶが良いのじゃ、なんせうぬはわしの伴侶じゃぞ?」

「認めてないけどね……」


満月が爛々と輝く月下で、二人の美少女は苦笑をしながら再び出会う。殺し合い、命のやり取りをしたのは、たった数時間前だと言うのにだ。だが、葛葉は何故か嫌な気持ちにはなれないのだ。


「……浮かない顔じゃなぁ。どうかしたのかのう?」

「…………被害が出た」

「昼のことかの? 死人は出ておらんじゃろ? それに全て元通りにしたのじゃ」

「……だとしても、私はもっと早く行動できたはず」


悔いているのは自分の情けなさだ。例え全てが元通りになったとしても、心の傷は治らない。先の戦いで、圧倒的な強さにトラウマを持ち、冒険者を辞めた者達が何人か居たらしい。

他にも、思い出の場所が一時的にだとしても、壊されていく絶望感に心を病む者も居た。自分が早く行動出来たのなら、そんなことは起きなかったはずだ。


「……葛葉よ、うぬは自分を責めすぎじゃ。そんなではこの先上手くやっていけんぞ?」

「……」

「はぁ〜、わしが認めた【英雄】なのじゃ、少しはシャキッとせい!」

「……【英雄】?」

「そうじゃ」


葛葉に飛び掛かり、羽の様に肩の上に乗っかる鬼丸。側から見れば肩車の様であった。鬼丸が放った一言に、葛葉が鬼丸の顔を覗き込んだ。


「……再び、認めようでは無いか!」


パッと葛葉の肩から飛び降り、華麗に着地する鬼丸。葛葉は振り向き、鬼丸と面と向かい瞳を真っ直ぐと見る。


「我が真名! 『大嶽丸』が認める! 鬼代葛葉よ、うぬを新時代の【英雄】である事を、認める‼︎」


瞬間、ブワッと葛葉の全身に鳥肌が立ち、目の前の少女がやはり世界の一角を担う、大物である事を自覚すると共に、嬉しさでいっぱいになった。




 ――ある者達、先代の【英雄】の仲間は新たな【英雄】の出現に反応し。


 ――ある者は、満月を見上げながら口角を上げて歓喜し。


 ――ある者は、静止する厄災を眺めながら眉を寄せて。


 ――ある者は、楔に繋がられながら自由の世界の上で輝く満月を眺めながら。


 ――ある者は、そこに並べるように鍛錬を積みながら。


 ――ある???の石像からは、石片が崩れ落ちる。




 ――そして世界は、英雄を欲している――

読んで頂き、ありがとうございます‼︎

世界は英雄を欲している。何ともまぁ、厨二ちっくな言葉なんでしょうかね〜。

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