三十五話 決着を
今宵はめちょ多めですよ!
葛葉がデザートイーグルを投げ捨てるのとほぼ同時、鬼丸が葛葉の目の前へと現れる。またしても顔面に三発入れられるのかと、覚悟を決め身構えていると、
「――っ⁉︎ ……うっ」
鬼丸の手が葛葉の腹部を貫通させたのだった。血が食道を上り、口から吐血する。内臓をやられたのだろうか。物凄く痛い。だが、これも好機へと変える。
「終いじゃ」
そう言い鬼丸が手を引き抜こうとするのを、葛葉は残りの力を全てを手に集約させ邪魔した。そして空いた片方の手に光を収束させる。一分一秒が無駄に出来ない局面、態々安全ピンを抜く必要すらない。ならば創り出す物のイメージは、
「これでお終いですね……!」
安全ピンなんて最初から付けてなく、安全レバーも外した手榴弾だ。手榴弾の爆発時間は5〜6秒。その間、鬼丸を逃さないようにすればいい。自身を囮にした自爆攻撃。手榴弾を手から離し、葛葉と鬼丸の間で手榴弾は自然の摂理にならい自由落下していく。刻々と時間が流れ、それは一瞬だった。
「――っ」
光ったと思ったら次の瞬間に、何か固い物が全身に突き刺さる感覚がした。その何かは身体に刺さり、貫通こそはしないが内臓を幾つも傷付けた。
「……ぐぅ」
あまりの痛さに二、三メートル吹っ飛んだ身体を動かすことも出来ない。大人しく『想像』を使い、致命傷を治し始めるのだった。
「……これで、傷くらいは負って欲しいんだけどなぁ〜」
『想像』のお陰で致命傷を治し、歩けるようになった頃に葛葉はぼやきながら、鬼丸が吹っ飛ばされたであろう方へと歩き出す。その葛葉の歩き方も不恰好であり、消耗していることが分かる。実際に、葛葉の身体は限界をとっくに迎えており、もう戦う事はできない状態だ。
「……うへぇ」
「…………何じゃその反応は」
鬼丸の下へ着くと同時に葛葉は顔を盛大に歪め、深々とため息を吐いたのだった。
あの至近距離で破片手榴弾を喰らったというのに、鬼丸はピンピンとしており、服に刺さった破片を一つ一つ丁寧に抜き取っていた。
「……ふぅ、まぁ良いじゃろう。覚悟は伝わってきおったのじゃ。それにこれ以上戦えんじゃろうしなぁ」
ニヒッと不敵に笑う鬼丸。葛葉は顔に疑問符を浮かべながらも、鬼丸を見つめるのだった。
「終わり方はあっさりしとるが、別に良いじゃろう。葛葉よ、うぬの運命の抗い方とやらを、わしはしかと聞き、この目で見たのじゃ……」
パンパンと服を叩き、残りの破片を全て落としながら鬼丸が立ち上がり葛葉の前へとやって来て――、
「――っ⁉︎」
葛葉の戦闘服の襟の部分を掴み、強引に引っ張りそして強引に葛葉のファーストキス(自分と済ました)を、奪ったのだった。唐突なキスに、葛葉が慌てて鬼丸を引き剥がす。
「……何じゃ釣れんの〜、わしの愛しの伴侶だというのに」
「は、伴侶!?」
鬼丸を引き剥がし、葛葉が大慌てで口を拭うのを見て、鬼丸が不満ありげに呟いた。気になる単語を添えて。
「そうじゃ、たった今誓いのキスは交わしたのじゃ。ほれ、首元を見て見るが良い、誓いの証が出来ておる」
良くは見えないが、確かに何か出来ているのは理解できる。ふと、視界の端に雪の様に舞い落ちる光が過った。
「……魔法が解け始めた、のう」
クラっと、頭上を眺めながら鬼丸が膝を地面についたのだった。葛葉は駆け寄り、頭から落ちない様にしてやった。
「優しいのう」
「……【英雄】だから」
「……フッ、じゃな」
鬼丸はそう言うと、葛葉に体重を預けながらゆっくりと地面に仰向けのまま、寝っ転がる。服の下からは多少なり出血していた。
「……もう限界じゃな。ちと、休むのじゃ」
瞼を閉じて、完全に寝に入っている鬼丸。そんな状況で、葛葉はしばらくして、何コレと思うのだった。
(……あんな辛い思いして戦った結果がコレって、なかなか腑に落ちないよ?)
モヤモヤする胸を抑えながら、葛葉は顔に疑問符を浮かべる。暴れた当の本人は、今となっては赤子の様にスヤスヤと寝ている。光の結界もあと十数秒もすれば、完全に消えて無くなる。あとはそれを待つだけ、自分もかなり疲れた。
くたびれた脚からは力が抜け、ボロボロの手からも力が抜ける。もう動きたくない。そう思っていた時だった。
崩れて行く光の結界の外から聞こえて来る、地響きと魔獣の咆哮が聞こえて来たのだ。
「――っ……くっ、痛ってて……」
手を地面に付けながら、ゆっくりと立ち上がる。もう動きたくないと、身体が悲鳴を上げて動こうとする意思を阻む。
でも、戦わなくちゃ、私は【英雄】なんだから――‼︎
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
やっとこさ五章が終わりましたね……。ここだけの話、実は四万五千以上なんですよね……。
あれ? なんか俺、書きすぎちゃいましたか?
面白いと思って頂けたら、ブックマークと評価をお願いします‼︎