三十二話 願い
遅くなりました!
「――葉加瀬っ! 行かせてくれ! ボクを!」
「ダメに決まっているだろう。第一にそんな怪我で戦える訳がないし、戦わせる訳にも行かない」
「ぐぬぬぬっ‼︎」
今にも飛び出しそうな傷だらけの緋月に、葉加瀬は諭すように優しい声で言ってやった。だが当の緋月は大変ご立腹のようだった。東区の中央部に形成された天にも届きそうな光の柱。その光の柱の中からは再び激戦の音がしてきた。
「葉〜加〜瀬〜‼︎」
「ダメだ」
手足をジタバタと振り回し、おもちゃが欲しい子供の様に駄々をこねる緋月。そんな緋月に葉加瀬はため息と共に言葉を返す。行かせられないダメな理由は二つあるのだ。一つ目は先と同様、緋月の負っている怪我がかなり深刻なため。二つ目は、葛葉に頼まれてしまったからだ。
「……全く。若い子はなんでもするな」
光の中で戦う少女に向かって葉加瀬はそう呟くのだった。
——数十分前
『葉加瀬さん』
『どうかしたかい?』
『結界とか閉じ込める系の魔法って使えますか?』
『あぁ、あるよ。……あるが、まさか』
それは緋月が葛葉と入れ替わりで戦っている間の二人の会話だった。
『それで、あの鬼と私を閉じ込めてくれませんか?』
『……危険すぎるだろう』
『いえ、良いんです。やらせて下さい! 私は【英雄】になりたいんです!!』
『……そうか、分かった。君は万人を救う【英雄】になりたいのだろう。なら、その【英雄】の一歩目は……不可能を可能にして見せようか』
『……はいっ‼︎』
それが葉加瀬が頼まれた葛葉の願いだった。
「……【英雄】か。これも因果なのだろうか……」
五年前の様に、突然現れて突然消えるなんて事がないのを、葉加瀬は祈るばかりだった――。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
本当に危険で愚かですね〜。
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