二十八話 タイマン戦
自殺の行為だ!
二人の声が重なり合い、動きが劇的に良くなった葛葉に対して、感嘆や驚嘆の混じった声で呟やいた。その変化に当の葛葉はあまり自覚できていなかった。と言うよりか、自覚する――考える時間がなかったのだ。今葛葉の頭の中は、『想像』の行使のために様々な動きや攻撃をイメージするのに精一杯なのだ、だから他のことを考える事が出来ないのだ。
「——ッ! 『顕現せよ光の壁よ、至らぬ我が身を守る最硬の壁よ、今この場に顕現せよ』」
その戦いを眺めていた葉加瀬は、 ハッとしてから詠唱 を紡ぎ始めた。激化する葛葉と鬼丸の戦い、その最中に起きた葛葉のレベルアップ。前代未聞の偉業を成し得た少女は、皆を守るために戦いに身を投じる。その姿はその場に居た人々を感嘆させた。
そして詠唱は終わりを迎える。
「『極光壁』」
葉加瀬の静かな静音から紡がれた詠唱が終わると同時に、鬼丸と葛葉を中心に半径25mの光の壁が生成された。だがそれは壁というよりか、オーロラの様にも思えた。
「葛葉ちゃん……私は言われた通りにしたよ。……さぁ、好きに暴れると良い……君の戦い方を存分に発揮したまえ――っ‼︎」
「――……っ。ありがとうございます……葉加瀬さん」
光の壁の中心で葛葉は戦っていた手を止めた。光の壁の内部は瓦礫の山となった家屋と、鬼丸と葛葉のみが居るだけ。住民や冒険者達も二人以外は居ない戦場。葛葉はこの結界を生成してくれた葉加瀬に小さく感謝する。
「……ほう、一対一がご所望かの?」
「私が一番力を発揮できるので」
「……まるで今までは力を発揮できておらんかった、そう言ってる様にも思えるのじゃが?」
「さぁ?」
二人は向き合い、ナイフを構えず金棒を構えず、ただ話をするだけだった。何処となく、鬼丸からは懐かしい感じがするのだ。
「一つ問うのじゃ」
「何?」
「生きる……生まれてくる意味とは何じゃ……?」
鬼丸は葛葉では無く、空を見上げて――いや、空より遥か先を見上げて、葛葉に問い掛けた。
その言葉に、葛葉は一瞬戸惑った。葛葉と『葛葉』の両方の記憶を探っても、そんな哲学に答えれる解などありはしないからだ。生きる意味、生まれてくる意味。そんなの――、
「――分かりません」
「そうじゃな、わしですら分からんからの……」
葛葉の答えに、鬼丸は満足も不満もせずにただ鼻で笑うのだった。生きる意味なんて考えたってすぐ思い付く物ではない。ただ自分の生きる意味は……何だったのだろうか。振り返れば自分の人生なんて、しょうもなかった。
両親が死に、自分に失望し自棄になり、死こそは選ばなかったが、結局苦しく辛い道を選んだ。妹が誰かに自慢するほど凄い兄、姉になりたいと願って身を粉にして頑張った。義母に負担をかけない様に心配をさせない様に頑張りに頑張った。でも結局頑張ることを諦めてしまった。自分は運命に負けたのだろう。思えば生きる意味とは? 運命に抗い、負けずに諦めないことなのかもしれない。
「……分かりませんけど、運命に絶望して希望を失ったら生きる意味なんて無いんじゃ無いですか」
「つまり?」
「運命に抗う……それが生きる意味だと思います」
それが答えなのか、答えでは無いのか……分かるわけがない。生きる意味だと生まれてきた意味だとか、そんなの神様に聞かなければ分からないのだから。
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葛葉は勝てるのでしょうか!?
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