二十七話 昇華
熱い展開!
ボコスカボコスカと本当に聞こえる音に、少女の呻き声が小さく響く。住人達が目を逸らし、冒険者達が拳を強く握り締める。律や五十鈴も情けなくただ傍観するだけ、緋月はもう身体が動かず、葉加瀬は本人に頼まれたため不本意ながらも、ただの傍観者となる。
一進一退……否、二進一退の攻防戦に置いて、葛葉は圧倒的に不利だった。なのに、葛葉は倒れない。腕が折れようと、四肢の骨が粉砕しようと、腹を突き破られようと、即座に『想像』で自身の体を回復させる。ゲームで言うゾンビアタックとなんら変わらない、無謀すぎる戦い方だ。
(……痛い……痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ‼︎)
全身を蝕む激痛に顔を顰めながら葛葉は心中で叫びを上げる。今にも気絶したい、今にも逃げ出したい……でも。
(――そんなの! 絶対に駄目‼︎)
弱い心を、挫けそうな心を、意志で奮い立たせる。逃げる? どこへ? この目の前の絶望を倒さない限り、痛い思いも苦しい思いも続く。
なら! やるべき事は一つ!
(『葛葉』さんの為にも! ここで挫けることなんて絶対に駄目‼︎)
『彼』が託した『彼』の記憶。元々持っていた葛葉の記憶とが混ざり合い、豊富な記憶が葛葉の頭の中にある。そしてそれは、葛葉の『想像』と言う力を莫大に強化するのだった――。
「……? ――っ!」
攻めて攻めて攻めまくっていた鬼丸が一瞬疑問符を浮かべ、瞬時にその顔色を余裕から驚愕へと変えたのだ。鬼丸の攻撃の全てを見切りそれら全てを避け、葛葉は一瞬で鬼丸の懐に潜り込んだ。だが攻撃することは叶わず、直ぐに距離を取られてしまったが。
(……それでこそじゃ、【英雄】が奮起するにはちょうど良いイベントなのじゃ……。格好良いぞ……っ!)
先までもとは圧倒的に動きが違う。鬼丸の攻撃を避けては、鬼丸に攻撃を繰り出す。鬼丸の攻撃もちょくちょく当たってしまうが。だが急激な戦闘技術の向上。まるでLv.1では無いような感覚を覚えてしまう。そして、誰よりも一番速く気付たのは……葉加瀬だった。
「……――っ。ま、まさか、葛葉ちゃんは」
そして次に気が付いたのは今も戦闘不能の緋月だった。
「成し遂げたのか……。葛っちゃん君は」
そう愛おしそうに葛葉を眺めながら呟いた。
『レベルアップを』
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
どんなに世知辛い世界でも、流石に成り上がりの王道イベントはやらせてくれるようです!
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