八話 動き出す影
連続十時前投稿……人間やれば出来るんですね。
この話も面白いと思ってくれたら嬉しいです!
葛葉は首にタオルをかけ、風呂上がりの余韻に浸りながらギルドの廊下を歩いていく。元の世界ではあんな大浴場なんて行ったことは無い。銭湯とかは流石に行ったことあるが、ほぼ貸し切りであの大浴場は中々……。
「ん、やぁ葛葉ちゃん」
「……葉加瀬さん?」
声を掛けられ、ふと目を開けるとそこには夜風に靡く髪、月明かりに照らされる白い肌、美女という言葉がこんなにも似合う容姿。葛葉はつい見惚れてしまった。ここはギルドの二階。中央廊下。真ん中にはバルコニーがあり、そこに葉加瀬が夜風に当たっていた。
「湯加減はどうだったかな?」
「あ、はい。凄く気持ちよかったです」
「それは良かった。今日はクエストと武具店に行ったりして疲れだろう? 早く寝ると良いよ」
「はい、そうします」
葛葉はそう言い、その場を後にした。
――???――
『思ったより進みが早いな。このままだと二ヶ月と半分っていたっところか】
オリアの街から数十キロ離れた廃城の高台にて黒いローブを纏った人物が声を落とす。
今回は【白狐】による邪魔も無い。
視線の先にはギルドがある。無音の廃城、そこに一人の少女が舞い降りる。
「ただいま戻りました」
『上手く行ったか?」
「はい。簡単な封印だったので何も問題なく解除出来ました。ですがあの場には……」
『大丈夫だろう。遠く無い未来に【英雄王】の仲間として世界を救うんだ、あの程度の厄災に敗れるはずがない』
夜風が強くなり、黒いローブの人物のフードが取れる。現れたのは、月明かりを反射するような青銀の髪と黒い狐の仮面だった。
『……今日は風が強いな』
「そうですね」
夜風は暖かく、優しい。黒い狐の仮面の人物は夜空を見上げる。空には満月があり、雲一つ無い。仮面をずらし、口元だけ露わにし少女は、
「これで終わりにしたいなぁ」
「…………我々は貴方様に一生仕えます。貴方様の罪も何もかも我々も背負います。ですから、そんな顔をしないで下さい……」
「――ッ。はは、今まで流さなかったのに……。今日、今日だけは例外かな……」
夜風は暖かく包み込む。少女の心を優しく、暖かく、まろやかに……茨の道を行く少女は今日初めて泣いた。
「……さて、あっちも始めるか。もう準備は出来てるな?」
「はい。一切の不備はありません」
それを聞き少女は狐の仮面を被り直し、後ろに控える何百何千という黒い影に向かい叫ぶ。
『これより作戦を開始する‼︎ 我々はここで終わらせるのだ‼︎ 悲しき連鎖を断ち切り、罪と使命のために我々はここで終わらせるのだ‼︎ 正義を蘇らせ、悪として討たれるために‼︎』
『うぉおおおおおおおお‼︎』
何百何千の歓声が空を震わせ、世界の果てまで届く。
『さぁ、ここからが本番だ』
廃城と廃城付近が淡い紫色に光る。光は段々と輝きを強くし、眩い光が夜空を照らした。
『……頼む』
廃城に一人で残った少女は震えた声で、
「鬼代葛葉……いや、次代の【英雄】」
機械的な声ではなく、悲痛に堪える声で、
「必ず殺してくれ!」
そう懇願するのだった。
読んでいただき、ありがとうございます‼︎
ここから物語が大きく動き出しますので! これからも読んで頂けると嬉しいです‼︎