二十六話 怖さをバネに
遅くなりました!
初めに動いたのは葛葉だった。素早い動きで鬼丸の懐に潜り込み、ナイフを振るう。シュッシュッと二回空気を切り裂きながら迫って来るナイフの音に、鬼丸は動じずにそのまま攻撃を避けてしまう。
(届かない――っ!)
鬼丸の着ているパーカーにすら切り傷を与えられなかった。
そして後攻の鬼丸が金棒をゆっくりと振り上げる。それだけで、葛葉は本能的恐怖を覚えると同時に死を覚悟する。恐怖からか脚が動かなくなってしまうのだ。
(……もう、それは良い‼︎)
だが葛葉は死を覚悟したかの様に瞼を瞑ると、凶行に走った。ブシャアと血飛沫が葛葉の細い太腿から吹き出したのだ。そして貫通した漆黒のナイフの切先からは、ポトポトと血が滴り落ちる。そう、葛葉は自らの脚を自らのナイフで突き刺したのだった。その光景は本人以外には、血迷ったかの様にしか見えず葛葉のパーティー以外の人々は疑問符を浮かべるが、次の瞬間には驚愕がその場を支配した。
「……うっ――つ」
刺さっていたナイフを引き抜き、葛葉は直ぐに『想像』で無かったことにしたのだ。すると傷はたちまち無くなった。緋月や葉加瀬は『想像』のことを知っていたが、唐突に自身の太腿を突き刺すという凶行には驚きを隠せなかった様だ。
「――ッ! ――……っ」
そうこうしてる内に、鬼丸の振り上げた金棒が葛葉に向かって振り下されようとした時だった、葛葉が咄嗟に後ろに跳ぶ事で難を逃れたのだ。先程までいた地面は破砕されており、無数の罅が地面に入っていた。
「……」
鬼丸が葛葉へ視線を向けると、一度真顔になり次には満面の笑みを浮かべていた。どうやら面白かった様だ。
葛葉の頬に一筋の汗が流れた。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
恐怖を痛みで無くすなんて……男前!
面白いと思って頂けたら、ブックマークと評価をお願いします‼︎