二十二話 ちっぽけな力
本当にLv.1⁉︎
「――ぐっ‼︎」
痛みに緋月が険しい顔をし、踏ん張り立とうとするが腱を切られた足は歩くことも走ることも、立つことさえ出来ない。地面に膝を付け苦渋の表情を浮かべる緋月。葛葉が唖然としていると、後ろに人の気配がしたのだった。
(不味い――っ‼︎ 想像が間に合わない……‼︎)
振り返る途中、葛葉はそんなことを思っていた。次の瞬間、腹部に何かがめり込み骨盤や肋骨に罅を入れそのまま葛葉の身体は人智を超えた力で吹っ飛ばされ、内臓が破裂しながら地面を転がった。吐血し激痛に身体が悲鳴を上げ、葛葉は今にも意識を手放してしまいそうになる。
「が……うぅ……」
立ち上がろうにも脚が震え上手く立てない。武器を持とうにも手が震えて物が持てない。痛いのは嫌だ。痛い思いなんかしたくない。何故こんなことを自分がしなくちゃいけないのか……。
(――っ。違う……そんなこと思っちゃ……駄目なんだ!)
自分が逃げていい権利なんてありはしない。彼の記憶を受け継ぎ、彼の願いのために。自分は痛みに堪え、目の前の絶望から人々を救う。そんな大層な願いを叶えるためには……自分には力が足りなさ過ぎたのだ。
「……立つのじゃ。ここで終わるのか? 違うじゃろう……ここから始めるのじゃろ?」
葛葉のことを見下ろし、鬼丸は葛葉へそう言ってやった。やっと【英雄】として目覚めようとしているのに、ここで挫けてもらっては困るのだ。それに鬼丸が愛した葛葉はここで挫けるような、軟弱な奴ではなかった。
「……――あぁあああああっ‼︎」
葛葉は叫びながらナイフを創造した。
痛みを力に、感情を爆発させる。どんなにボロボロになろうと、挫けるわけにはいかない。彼ならきっと挫けないから。ナイフを逆手に持ち素早く振るう。ここからはスピード戦だ。ナイフをもう一刀創造し、二刀流で攻撃の手数を増やす。避けているはずの鬼丸の身体に徐々に傷が増えていった。
(やっとなのじゃ……。今はあの時のような髪色ではないの……)
先の所々に白銀のメッシュが入った髪ではなく、今はいつもの紺色の髪だ。今の葛葉は素の力で鬼丸に傷を与えているのだ。それは奇跡にも等しい、可能性すら無いはずのことだ。それをなんの力もなく、自らの力で鬼丸に戦意をぶつけてくる。
「くっ――‼︎ はぁあああ――……‼︎」
痛む身体に鞭を打ち、葛葉は精一杯の咆哮を上げながらナイフを振るう。一振り二振り三振りと次々に攻撃が交わされようが、更に攻撃の手数を増やして攻撃する。
単純なようで全くもって難しい。
「……――っ⁉︎」
交わして居た鬼丸がくるりと翻り、反応が遅れた葛葉を容赦無く攻撃する。ただほんの少し腕に触れられただけなはずなのに、葛葉の腕が明後日の方向に手のひらを向けて居た。
「ぐっ――……‼︎」
右手でナイフを振り、鬼丸を後退させ、直ぐに想像で腕を元に戻す。明後日の方向を向いて居た腕はちゃんと元に戻り、痛みすら無くなる。
どんな回復魔法でも、どんなポーションでもこんなことは不可能だろう。痛みで止めた脚を再び動かし、鬼丸へと駆ける。そんな時だった。
「――葛っちゃん‼︎」
と大きな声で名前を呼ばれ、直ぐに葛葉は声の方に顔を向けた。すると怪我を治療した緋月が刀ではなく、大剣を持ち駆けて来る姿があった。
「……?」
その姿を鬼丸も見て、ただ満身創痍の奴が走ってきているだけの光景に、ただ疑問符が浮かび上がる。だが葛葉は知っていた。特訓の日々の中で、緋月がたまに本気を出す時がある。それは決まって、大剣の木剣で特訓してもらっていた時だと。
「葛っちゃんは一旦下がって! 葉加瀬が指示を出す!」
「……! は、はい!」
緋月のその言葉に葛葉は力強く頷き、緋月と入り替わりで鬼丸から離れるのだった。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
強者と共にですけど、少なくとも鬼丸とは殺りあえてる葛葉って……。
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