十九話 英雄
やっとこさ、主人公の見せ場がやって来ますよ!
「……ん」
「――葛葉さん!」
パチパチと瞬きをして、まだ曇天の空を仰向けで見上げる葛葉に、横から声が掛けられた。遠くからは激しい剣戟の音が聞こえて来ている。
「律……?」
傍に居たのは傷こそ癒えているがボロボロの律だった。葛葉の体も痛みはあるが、血は引き傷口も無くなっていた。
「葛葉さん、大丈夫ですか?」
律のその心配に葛葉が「うん」と頷き、律がホッと一安心する。そんな二人の下に歩いてくる足音が近付いてきた。律が顔を明るくさせ、葛葉が足音の方向に頭だけ動かすと、そこには回復薬を大量に抱えた五十鈴が居た。
「葛葉様!」
葛葉が目覚めたことに気付いた五十鈴が駆け寄ってきた。そして葛葉の横に膝立ちになり、回復薬を地面に置き葛葉の手を掴んで来たのだ。
「い、五十鈴……?」
「……ご無事ですか?」
「ま、まぁまぁ?」
十分痛みもあるし倦怠感もあるがため無事とは言えなかった。どっちかと言うと満身創痍に近いだろう。
葛葉は五十鈴の手を借りて上体だけ起こした。そしていの一番に目に入ってきたのは、鬼化状態の鬼丸とサシで殺りあっている緋月だった。視界の端には、葉加瀬が腹部に刺さった剣に片手を置きながら、もう一方の片手を突き出して緋月に援護魔法を掛けていた。
「戦況って?」
「…………劣勢です。緋月さんと葉加瀬さん、千佳さんの三人掛かりでも、倒せませんでした」
「……ぇ? 千佳さんも来てたの!?」
戦況よりも何よりも、女鍛治師である千佳が何故戦闘に参加して居たのか、ということに驚いてしまった。それより緋月達三人で掛かっても倒せなかった、つまりもうどうしようもないと言うことだ。
(でも……私は……‼︎)
『葛葉』は全てを思い出し知った。今に至る経緯から、彼が歩んできた道を。そして『葛葉』に与えられた、彼の最後の望み。
『世界を救え』そんな大層な望みを託されてしまったのだ。ならば自分は答えるのみ。男性で生まれてきた葛葉の記憶と、女性で生まれてきた『葛葉』の記憶を掛け合わせ、この世界を救う。だからまず、目の前の絶望から人々を街を救うのだ。
(私に託されたこと……きっと叶えて見せます……‼︎)
別の世界線の二人の記憶が入り混じり、別の世界線の【英雄】が掛け合わさったイレギュラーが今の葛葉なのだった。二人分の力を手に入れた葛葉の今のレベルは2。見事にレベルアップを果たして居た。
「律……五十鈴」
「ど、どうしたんですか?」
「……?」
葛葉の至って真剣な雰囲気に、律はきょどり五十鈴は頭を傾ける。
「あの戦いに、私達も参加する……!」
「……っ。葛葉様」
「ごめんね……五十鈴。危険なのは十分わかってるよ…………でもね、やらなきゃ駄目なの」
五十鈴が瞬時に、葛葉がまた無茶をするのだと理解し、憤りか悲しみかの感情を顔に出してしまった。葛葉も悪気がないわけではなく、罰が悪そうな顔で五十鈴に優しく語りかける。
「きっと……鬼丸を倒せるのは、葛葉さんなんですよね?」
「――っ」
そんな二人に横槍を入れたのは律だった。葛葉の事を真っ直ぐ見る律の瞳には、葛葉がどう思ってそんなことを思い立ったのかを見透かしたかのようだった。
「私は構いませんよ! 例え葛葉さんが危険な目に遭っても、私が守りますから!」
「ぁ……ふふ、ありがと」
葛葉の後に着いていくことを誓った律なのだから、葛葉は律が着いてきてくれる事を信じて居た。
「…………葛葉様を守るのは、私ですっ」
頭を振り、そう声を上げたのは五十鈴だった。葛葉と律は顔を見合わせて、ふふっと小さく吹いてしまった。
「それじゃあ、二人とも準備は良い?」
「はいっ!」
「はい、出来てます」
葛葉の言葉に、気合十分の律が頷き大きな声で返事をし、何処からか出した盾の具合を確認した五十鈴が返事を返した。
「じゃあ、始めるよ!」
【英雄】は今日この日に、この瞬間に目覚めるのだった――。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
やっと主人公が本当の力に目覚めましたね!
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