十六話 転生者
チートで無双ほど、嫌だなと思うものはないですね!
それでハーレムだった場合、もうね……。
(ボクは何度も間違ってきた)
選択を誤り、何人も何人も救えて来れなかった。いや、最初から自分にはそんな力はなかった。緋月がして来た事はただの真似事で、無意味で、善を騙った悪虐行為。今も幻視している【英雄】の真似事だ。
「……だから」
半壊した家屋、血を流す冒険者達に自分の命に代えても守るべき少女。守れてなんか居ない、ギルド長と言う格を得たと言うのに、何一つ変わって居ない。
「今度こそは」
失いたく無い、絶望は嫌い、希望が欲しい、明るい明日を迎えたい。この残酷な世界に抗う、その力を今は持っている。たった3レベルの差なんてどうでもいい、今日この日の選択を間違わないために、
「命を賭ける――」
その決心と共に緋月は鬼丸へ挑んだ――。
葉加瀬の時間稼ぎは終わり、直ぐにLv.12とLv.9の超越者達による激戦が繰り広げられて居た。そしてそれを眺めながら、最上位魔法や上級魔法の連発をした葉加瀬に、魔力切れの様子は無く、次の魔法の構築を始めて居た。
「――これまた派手にやってるね〜」
と後ろから声をかけられた、葉加瀬が後ろを振り向くと、そこには片手剣で肩を叩き盾を片手の人差し指で回す千佳が居たのだった。葉加瀬は一瞬目を見開くと、
「……来るの遅い」
と文句を言うのだった。
「いや〜だって一人で出張っても、どうせ見せしめでボッコボコにされるんでしょ〜?」
ゆるふわな雰囲気を醸しながら、お約束の展開はごめんだと眉を寄せる千佳に、葉加瀬がため息を吐いた。そんな事で冒険者達が重傷を負い、葛葉が死の寸前まで追い詰められたのだが。
「まぁいいや。ほら、千佳も参戦するといい」
「え〜今入ったら死んじゃうよ〜」
激し過ぎる戦いは地面を、家屋を壊しては壊し尽くす、破壊の限りを尽くして居た。間違いなく、あの場にほいほいと出ていってしまっては一秒で細切れになる事だろう。
「……なら、少し待ってからの参戦だね」
「そだね〜…………で、勝算は?」
するとゆるふわだった千佳の雰囲気が変わり、冷たい氷の様な雰囲気へと様変わりした。
「ない」
「……そう」
葉加瀬の即答に千佳は何も言わずにただ、目の前で起こっている戦いを眺めるだけだった。Lv.12とLv.9の戦闘に加勢など、出来るわけがない。それこそ、巫女クラスか【英雄】でも無い限り不可能だろう。例え日本から転生して来た者だったとしても。
この世界で『チートで無双』という言葉は存在しない。この世界は酷く残酷で、これ以上無い程に美しい。例え理不尽で塗れて居ても、例え絶望しか待って居なくても、この世界では許される。どんな感情を抱き、どんな考えを持ったとしても、否定される事はない。何故ならこの世界は、広過ぎるから。
「……努力はして来たと思ってたんだけどな〜」
鬼丸の攻撃を防ぎ、隙を突いた緋月の攻撃は当たらず、また鬼丸の攻撃を防ぐの繰り返し。緋月があれ程までに強い理由は至極簡単、この世界での経験と努力の量。緋月はこの世界にやって来てからの経験を知識に、知識を知恵に変えた。そしてその知恵使って努力した。
それが緋月だった。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
緋月はとっても強いのですが……。
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