九話 街では
今日も早めです!
「どうぞー、君もどうぞー」
律が配膳ワゴンを押しながら、住民達に料理を渡して居るの後ろから見守る葛葉と五十鈴。そして二人の足元には群がる子供たちが居た。男の子が足に抱きつき「ねーねー!」と声を掛けてくるのを葛葉は必死に対応していた。五十鈴にも子供達が群がっており、子供の相手は苦手なのかオドオドと、珍しい姿を見られるのだった。
「あー大変だなぁこりゃ」
「……あ、あの葛葉様。どうすれば良いですか……!」
汗が滲んだ表情で困り果てた様子の五十鈴が、葛葉に助け舟を求める様に声を掛けてきた。五十鈴の方にはかなり小さい子達が多くて、葛葉よりも大変そうだった。
「キー君! 何してるの!」
「何だよー」
葛葉が困り果てて居る五十鈴をニヤニヤと眺めて居ると、葛葉の素足に抱き着いていた男の子に声を掛けてきた女の子。どうやら怒っているらしく、男の子の方は嫌な顔をして居る。とそこで、葛葉は嫌な予感を感じた。
「離れて!」
「嫌だよ!」
怒こる女の子にそう言って、葛葉の脚に抱き着く力を強くする男の子。女の子は男の子を引き剥がそうと、男の子の腕を引っ張る。
「キー君!」
「どっかいけよ!」
女の子が精一杯引き剥がそうとするが、やはり男の子の方が力は強く、女の子は掴んでいた手を振り解かれてしまった。葛葉はそんなやり取りを、口角を引き攣らせながらどうするかと思案していた。
「俺のお母さん面すんな!」
「――!」
すると男の子が女の子に向かってそう吐き捨ててしまったのだ。女の子の顔は見る見る内に真っ赤になり、終いには泣き出してしまった。
「……ありゃりゃ」
「んべーだ!」
わんわんと泣き喚く女の子に、男の子は舌を出し侮蔑した。周囲の子供達もザワつきだし、五十鈴も不安そうに見てきて居る。はぁとため息を吐き、葛葉は肩を掴んで足から引き剥がす。引き剥がした時、あぁ! と惜しんでいた。そんな男の子に葛葉は、この歳でこれとは将来が不安だ、と思うのだった。
「君、女の子泣かせちゃダメだよ?」
「……ふん!」
そう葛葉が優しく語りかけるが、男の子は聞く耳を持たずそっぽを向く。かなり生意気だ。この年頃じゃこんなもんだよねぇ、と思いつつ葛葉が苦笑しながらため息をつく。
「……ねぇ、君は【英雄】って好き?」
「……す、好きだよ」
「なら、一層女の子泣かしちゃダメだよ」
「どう言う理屈だよ!」
葛葉の言葉に男の子は食ってかかる。
「【英雄】は人を泣かせたりしないからだよ」
「――っ!」
葛葉は含み笑いを交えながら、そう言ってやった。すると男の子はハッと何かに気付いたのだろう。目を見開き、口をポカーンと衝撃を受けていた。
「さ、謝ろう?」
「わ、分かっ――」
男の子が最後まで言い終わる直前、空から拳骨が降ってきたのだ。葛葉はあっ……と呟き、男の子は頭を抑え唸る。
「キール! 何してだい!」
男の子を制裁した拳の持ち主である女性であった。女性はどうやら男の子の母親だったみたいだ。その母親には何処か凄みがあり、葛葉も周囲の子供達も後ずさるほどだった。
「あんたまた泣かしたのかい⁉︎ 全く馬鹿の一つ覚えも出来ないのかい!?」
「くぅーー! ……う、うるさいババア‼︎」
「あ、ちょっとあんた‼︎ 待ちなさい‼︎」
男の子は勇気を振り絞って、全世界最強最悪の生物の母親にそう言い捨てて全速力で逃げていった。
「まったく、あのバカ息子! はぁ、カレンちゃんごめんねぇ」
「うっ……うっ……」
嗚咽し泣いていた女の子を手を取り母親は頭を撫でてやると、男の子の母親は葛葉に顔を向けると、
「あなたもごめんね、あのバカ息子に付き合わせちゃって」
「い、いえいえ」
苦笑しながら葛葉は母親に会釈してやると、母親は女の子を連れて男の子の走っていった方へ歩き出してしまった。とそこで泣き止んだ女の子が、歩きながら後ろを向き葛葉をキッ! と睨んできたのだ。
「……うーん、複雑だなぁ」
ポリポリと頬を掻きながら、葛葉はそう呟いたのだった。
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次の話からはまた戦いになるでしょう‼︎
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