七話 お仕事
手伝いですが
「――っ?」
ふと葛葉はある方向を振り返った。住人達が避難してから既に三十分は経っていた。葛葉は、両手に抱えたシーツの様なマットの様な布をギルド職員から受け取り、指定されて居る位置に運んでいる途中だった。そんな時、誰かに見られて居る気配を感じたのだ。
「葛葉さん?」
と律は布を抱えながら立ち止まって居る葛葉に声を掛けた。キョトンと律は疑問符を浮かべ、首を傾げる。
「あ、何でもないや」
「……?」
たははと頬をポリポリと掻きながらそう言う葛葉に、律は更に疑問符を浮かべる。葛葉が歩き出し、律も着いて行く。今、住人達とは別の所に避難所が作られていた。現在住人達が避難して居るのは仮の方なのだ。それに長い間固い地面の上に座らせるのも何なので、ギルド職員主導の下、Lv.1の冒険者達が簡易的な避難所の建設をしていたのだ。
「……ふう、これで一通り終わったかなー?」
「そうだと良いですねー!」
「――葛葉様、律様、あと三往復です」
葛葉と律が抱えていた布を――地味に重い布を――地面に置き、深呼吸をして額の汗を拭き取るような仕草をして、曇天の空を見上げていた。そんな二人に気配を消して背後から急に声を掛ける五十鈴。二人の肩に手を置おくと、ブワッと葛葉と律が冷や汗を流した。
「最後まで頑張りましょう……?」
「「は、はい……」」
二人は五十鈴の放つ圧に屈して、しくしくと目端に涙を溜めながら布の置いてある場所へ向かうのだった。オリアの街は四区に分けられており、東区、西区、南区、北区がある。その為オリアはかなり広く、街というよりか都市の方が似合うほどであるが、王都と比べれば小さい方らしい。そして今回、魔物が攻めてきたのは北区であった。
「一時的な避難とはいえ、北区の住人を東区に移動させるのは無理だったんじゃないか?」
「そうは言うがな、葉加瀬さんが立案したんだ仕方ないだろ?」
「でもなぁ」
と葛葉は流し目で、会話をして居るギルド職員達を見た。職員の顔には怪訝な表情が浮かんでいる。葛葉も少なからず怪しいと思っている。緊急警報時の、緋月と葉加瀬のやっぱり感。そして少数を除く、ギルド職員の手際の良さ。緋月や葉加瀬さんはこうなることを知っていたのかも知れない。邪推だろうか……。
「戦い始めてもう一時間か」
「緋月様が出て居るのに遅いですね」
「ねー。チーターなあの人なのに」
チーター? と聞き慣れない単語に疑問符を浮かべる五十鈴を無視して、葛葉はまだ砲撃音が響く方を見やる。何か手こずる要因があったのだろう。まぁ、自分達には何も出来ないだろうが。何せ、あの二人が手こずるのだから。
「あー、君達! これを持っていってくれないか?」
葛葉達が歩いて居ると、一人ギルドの男性職員が現代で言うデカくなった配膳ワゴンを押しながら声を掛けてきたのだ。前に居た葛葉と五十鈴がキョトンとする中、律だけ配膳ワゴンの上に置かれた料理を涎を垂らして見ていた。
「……た、食べないよね?」
キラキラと目を輝かせ、あははーと涎を垂らしまくり、今にもガッツきそうな律に男性職員が不安な表情でそう言った。律は「た、食べません!」と説得力の欠片も無い状態でいうのだった。
「それで、これは?」
「ほら、北区の住人は昼食食べれてない人が多そうだからさ」
「なるほど、確かにそうですね」
「君らもお腹空いてるだろうし、住人達に食べ物を渡してから、君らも昼食にすると良いよ」
そう言って、ギルド職員は次の仕事をしにいってしまった。どうやら、ギルドは働き者が多いようで。前に葉加瀬から聞いた話では、働いてないのは緋月のみな様。
「あの人ってホント凄いなぁ」
「……さ、早く配りましょう」
盲目的な目で葛葉は空を見上げるのだった。
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配膳ワゴンは謎の魔法で、車輪ではなくて宙に浮かして運ぶことができます!
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