六話 Lvの差
五章の長さだけ段違いなんですよね。
「……はぁ〜最近の魔物は弱くなったの〜」
次々と狩られていく魔物達を睥睨しながら鬼丸は愚痴を溢すのだった。遠く離れた森に生えて居る木の枝の上で、鬼丸は戦場を眺めていた。
「だがまぁ、Lv.2程度じゃこんくらいじゃろうなぁ……」
あちら側にも痛手は与えて居るが、致命打にはなりはしない。あともう一手間加える必要がある。
「ここいらで、ちと刺激が欲しくなるのぉ〜」
ニヒっと口角を上げて、木の枝の下で鬼丸の指示を待ち、ただただ立ち尽くしている魔物達へ目を向けた。四匹居る魔物は狩り尽くされていく魔物達とは一線を画す。あの魔物達は個々が強いわけでは無いのだ、だがこの魔物達は個々が強いのだ。
「うぬら、行くが良い」
鬼丸が指示を出すと、直ぐに戦場へと歩き出した。大型級が二匹に中型級が一匹、小型級が一匹と一見すれば強くは無さそうが、魔物達のレベルは三以上五未満だ。だが中には五以上のも居る。
「さて、わしの目的は此処では無いようじゃな」
四匹が戦場に向かう姿を一通り眺めると、鬼丸はよっこらしょっとと呟きながら立ち上がり、木の枝から飛び降りる。
「……行くか」
パンパンと服を叩き汚れを払い、鬼丸は呟きを溢して戦場に背を向け、戦いが起きている北門ではなく、人の気配が多くする東門へと向かった。
(……ただの魔物の群れでは……無いな。種族はバラバラな上に、ちゃんとした戦い方をして居るのは居ないな)
戦場を椅子に座り顎に手を当て、脚を組み市壁の上から俯瞰する葉加瀬は考え事をしていた。途中途中、冒険者達に指示を出し、効率よく魔物の討伐をさせたりとちゃんと仕事をこなして居た。
(はぁ、可能性すら無いとは……。確実とは、全く嫌なものだ。姿はないが……何処かで見て居るか)
どう考えても、鬼丸が関与して居るのは確定だった。どうにかこうにか、関与していないと言う可能性を見つけ出そうと試みるが、どう考えても可能性はゼロだった。
「……ん。あれは……」
ふと視界の端に過ぎった四つの黒いシルエット。形的に魔物と言うことは直ぐにわかる。だが、もう大群の数も少なく、増援にしては数が少な過ぎる。徐々にシルエットがハッキリとしてきた頃、葉加瀬が一雫の汗を滴り落とした。
「……不味い」
他三匹はどうとでもなる、だが一匹だけは桁違いのが居た。純白の毛並みを揺らしながら、猛スピードでやってくる狼の魔物。本来ならこの様な場所には居るはずがない、魔物。平均Lv.5以上の怪物の中の怪物、氷狼『フェンリル』
「……どう言うことだ? 本来居ない魔物が……何故こんなところに?」
流石の葉加瀬でも動揺し、つい立ち上がり目を見開いてしまう。最近出現した魔物、『ワイバーン』に『タイラント』そして今、目の前にいる『フェンリル』の三匹。本来ならどの魔物もこの地では居ない上に、フェンリルに至っては魔族領にしか居ないはずなのだ。
(いや、今はそんなのはいい……。不味いのは前衛職の冒険者が殺られる事……!)
戦場を見れば――突出して居る緋月を除いて――冒険者達はかなり追い込められて居る。こちらの量が魔物達よりも圧倒的に少ないからだ。
「……」
戦場を一頻り眺めてから、葉加瀬は俯き静かに深呼吸をして、顔を上げる。そして次には葉加瀬の白衣が揺れ始める。市壁の床には魔法陣が展開され、宙にも幾つもの魔法陣が戦場に向けて展開されて居る。
「……少し、本気を出そう」
今、葉加瀬に出来る事は魔法での援護のみ。考察して居る時間なんて端から存在していないのだ。魔法陣の中心に出来上がる、それぞれの属性の魔法。火、水、風、雷、土、氷、光、闇とまだまだ存在する属性の中から、最上位魔法が使えるのを選ぶ。周辺の魔力が吸われ、更に魔法の威力を底上げる。
「合成魔法『晦冥極光天弓』」
七属性の魔法が集まり融合した合成魔法。これは葉加瀬が生み出した最恐の魔法だった。(なお、魔法名は酔っ払った緋月が付けた物である)
この魔法を喰らうと、火に熱されたかのような痛みの後に、溺れて居る様な感覚を味わい、全身を鋭い痛みに蝕われ、麻痺状態に陥り一切動けなくなり、全身を何か重りに圧迫され、凍える様な急な寒さに手先が凍傷を起こし、失明するほどの光が目の前に炸裂し、感覚が消え何も感じなくなってしまうのだ。
この状態異常のエレクトリカルパレードは、対象を戦闘的にも人間性的にも再起不能にしてしまう。
「とりあえずはこれで…………外した」
戦場のちょっと先では、『晦冥極光天弓』を喰らった大型と小型の魔獣が阿鼻叫喚をして居る。そんな光景を背に、真っ直ぐ向かってくる『フェンリル』
『晦冥極光天弓』は極太の光線であり、その光線に触れた対象に効果を発揮する物なのだ。ので、触れていない対象は普通に元気ピンピンだ。徐々に速度を上げる『フェンリル』は、とうとう冒険者達が戦っている戦線に到着し、一人の冒険者に襲い掛かった。
「――桜花抜刀術『逆桜吹雪』」
冒険者が『フェンリル』に喉元を噛み付かれる寸前、桜が舞い落ちる様に舞い上がる『フェンリル』の体。そして同時に出来る無数の斬り傷。緋月は一瞬で推定Lv.5の魔物を手負いにしてしまった。
「ここから先は行かせないよ……」
刀に付着した血を振り払い落とす。
『フェンリル』は距離を取り威嚇を繰り出すが、圧倒的な強さの緋月は怯みもせずに迫ってくる。『フェンリル』は怯えに怯え――緋月の笑って居る様で笑ってない笑顔に怯え――後退っていく。と次の瞬間、『フェンリル』が高く飛び上がり、次には地面が凍る。宙に浮いた『フェンリル』は無数の氷柱を生成し、そしてその氷柱が緋月に迫った。
だが、その全ての氷柱は緋月にダメージを与える事は出来ず、全て切り落とされるのだった。まだ宙に浮いて居る『フェンリル』が動く前に、緋月が腰に携えたもう一刀の刀の柄を握る。
「我流抜刀術『天下滅殺』」
柄を握り鞘から刀を抜く、その刀の刀身は燃え盛る炎の如く赤色で、怪しく太陽の光を反射する。そう認識したと同時に、『フェンリル』の視界がズレる。氷の地面の上に、縦に八枚下ろしにされた『フェンリル』の身体が落ちた。
「…………」
『フェンリル』を倒したにも関わらず、緋月は浮かばない表情で、『フェンリル』の死骸と血を眺めるだけだった。
「……嫌な気配が」
ふと遠くにある森に目を向け、緋月はぼそっと呟いた――。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
Lv.5は緋月にとっては赤ちゃんなんですかね!
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