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四話 戦の始まり

今日は多めですね!

時刻は午前。あと少しで昼食を取る時間になるが、葛葉達の特訓は終わらなかった。何日分のブランクを無くすまで、葛葉と律は緋月にお願いして特訓を続けていた。


「二人は熱心だね」


激しく戦い合う二人の姿を見ながら、葉加瀬が呟く。五十鈴は葉加瀬の見る二人の姿をみて、「はい」と言葉を返した。


「強くなるか……。昔もそう意気込んだ事があった」

「……葉加瀬様や緋月様は強くなる必要があるんですか?」

「あぁ、何も最初から強かったわけじゃ無いからね」


当たり前だ。日本人だったとしても、たとえ巫女であったとしても、この世知辛く理不尽に満ち溢れた世界で、最初から強いわけでは無いのだ。緋月達チート持ち転生者、鬼丸同様巫女達、彼等彼女等は過酷な日々を通して、多大な犠牲を払ってここまで登り詰めて来たのだ。


「……幾つも見たさ、人の死をね。同郷の者達のも」


残酷な日々の中、緋月や葉加瀬は強くなった。そうしなければこの世界では生きて行けないのだから。自分よりも強い者に守って貰わない限り、生死を賭けた戦いを強いられ続けられるのだ。


「……君等はその途中だ。故に成長も早いはずなんだ」


必死に生き延びてきた緋月や葉加瀬とは違い、葛葉達はゆっくりと着実に強くなっていく。世代が移り変わって居くと同時に、時代は動き出す。


「そうやって、この世界は成り立って居るのだから」


弱肉強食を体現したような、この異世界で次世代の【英雄】は何を成すのか。これ程までに唆られる事象が存在するだろうか、葉加瀬は研究者の性に操られるように、彼女の軌跡を記録するのだ。


「これは世界を箱庭とした、実験みたいな物さ」


マウスは君だ。葉加瀬はそう言って居るような眼差しを葛葉に向けた――。

緋月の一振りは葛葉と律の防御を最も容易く破壊する。その一撃一撃が竜をも殺せるような一撃だ。


(まともに攻撃を喰らえば、良くて戦闘不能かな)


一進一退の攻防。考え事をしながら緋月の攻撃を去なす葛葉、攻撃を去なされた緋月のちょっとした硬直を狙った律の攻撃。だがどれも決定打にはならない。


「……はぁ〜〜〜〜」

「葛葉さん……?」


距離を取り、大きく深くため息を吐く葛葉に律は思わず声を掛ける。このまま同じ事を続けても意味がない、だが倒そうにも倒せる相手ではない。ならどうするべきか、葛葉はその自問自答の解を見出した。攻め切れないのは連携が成っていないから。


「律、合わせてね」

「……え、あ! は、はい‼︎」


葛葉は横に並ぶ律に顔を向け言葉少なに、律へ指示を飛ばした。手数が多ければ、流石の緋月でも隙は生まれるはずだ。なら葛葉と律のやる事は一つ……。


「行くよ!」


葛葉の掛け声と共に二人は駆け出す。スピード特化の葛葉に猛追する律は、鞘から刀を抜き放つ。勿論緋月は葛葉と律のことを警戒するに決まって居る。二人は並走を続けながら、大きく間を離していく。円を書くように緋月の周りを走り始める。そして、緋月が目を見開いた。スレ違いざまに律の持っていた刀が消えたのだ。


(ど――ッ!?)


消えた刀を探そうとした瞬間、背後からの殺気に本能が避けろと叫んだ。緋月は本能のままに横に飛び退いた。と同時にブヒュン! と言う気体を切る音が聞こえた。


(……律ちゃんと刀は囮で、途中から全く気配がなかった葛っちゃんが本命だったのか……)


二人が次の行動に移るように、緋月も直ぐに動く。戦いにおいて突っ立って居る者など、この異世界ではただの案山子に変わらない。刀を律に投げ返し、葛葉は武器を創造する。両手の淡い光が収束し霧散すると、二刀の小刀が姿を現した。走る速度を上げて、葛葉は緋月に迫った。


「……次はどう言う作戦かな?」


ニヒと口角を上げて、緋月は手に持って居る刀を構え直して葛葉の攻撃を受け止めた。ギギギと小刀と刀が鍔迫り合い、最初の勢いであと少しで緋月に届く小刀だったが、徐々に押し返されていく。


「……ッ!」


葛葉が更に力み、緋月の力も更に増す。二人の足は固定されて居るかのように動かない。――そしてそれが、葛葉の狙いだった。ふと緋月は気付いた、律が仕掛けてこないことに。先と同様ならもう仕掛けてきても良いのに、いつまで経っても仕掛けて来ないのだ。緋月が不思議に思って居ると同時に、葛葉が小刀ごと緋月の刀を横に倒した。


「……?」


意味の無い行動に、緋月が葛葉に怪訝な視線を向けようとした時、葛葉の影から姿を現した律に驚愕した。


「ふっ――‼︎」


律は刀を大上段に上げて振り下ろす。が、緋月は刀を馬鹿力で小刀から抜き、律の刀を受け止めた。まさに神技としか言えざるおえない。完璧な不意打ちを防がれた律が目を白黒させ、身体のバランスを崩してしまった。


「はわ⁉︎」


顔から落ち、緋月にも刀を弾かれる。それを見ていた葛葉が目頭を抑えてため息を吐いた。緋月も気不味そうにしていた。二人は数瞬どうするか、と言った雰囲気で固まるが、気を取り直して戦いを続行させる。神速の如き緋月の攻撃に、葛葉は神回避をして直ぐに立ち上がる。それを予想していた緋月がまたしても神速の如き一刃を放つが、葛葉はまたしても神回避をして反撃を繰り出した。だがその反撃の一撃は緋月に防がれ、不利な体勢の葛葉に木の刀が振り下ろされる。


「……――っ⁉︎」


が振り下ろされた木剣を、葛葉は小刀をクロスさせて受け止めた。そのまま競り合い徐々に葛葉は押されて行った。


「ぐっ……」


このまま決着が付くはずだった。

葛葉が火事場の馬鹿力で刀の軌道を逸らして力を抜いた。案の定刀は地面に突き刺さり緋月はガラ空きの状態になってしまった。千載一遇のチャンス。葛葉は小刀を逆手に持ち、緋月へ当てようとした。


「――はい、お終い」

「…………………………ぇ?」


気付けば葛葉は木剣を当てられていた。

何が起こった、葛葉は驚愕よりも呆気に取られていた。確かに最後の一撃を繰り出した。回避のしようがないはずの確実の最後の一撃だ。それなのに、緋月は目の前で木剣の切先を葛葉の腹部に当てて、済ました顔で葛葉を見下ろしていた。頭の中が疑問符に埋め尽くされ、理解しようにも理解できない。どうすればあの状態から、こんな状態になるのか。葛葉の記憶が正しいなら、葛葉の小刀が緋月に当たる寸前だったはず。なのに、なぜ自分に地面に突き刺さっていた木の刀の切先が当てられて居るのか。


「…………何が、起こったんですか?」


五十鈴も何が起こったのか理解して居なかった。瞬きした次には今の光景が広がっていたのだ。Lv.1の者には何が起こったかは理解できないだろう。それ程までに、緋月が本気になるまで追い詰められたと言うことだった。


「まぁ無理もないさ、私でやっと追いついたんだから」


隣で座っている葉加瀬が目を細めながら、驚愕して居る五十鈴にそう諭すように言う。事実、葉加瀬でもギリギリ緋月の行動に目が追いついていたのだった。同レベルの葉加瀬でもやっと、と言う時点で葛葉達に何が起きたか理解できるわけがなかった。


「……これからの特訓でも、本気出しちゃうかもね」

「…………これ、勝ち目なくないですか?」

「ふふん、いつかボクに勝ってくれると信じてるよ〜!」


済ました顔から、いつものふにゃっとした感じの顔になる緋月に、葛葉は苦笑を浮かべる。緋月の言葉に、そのビジョンが浮かばないのは葛葉だけでは無いはず。緋月に勝てるなんて、あと何十年後になるやら……。とそう思っていた時だった。


「……――っ」

「……なんですか、これ?」


突如なり出した空襲警報にも似た音に、葛葉が首を傾げて緋月に顔を向けた。だが、緋月の険しい顔を見て葛葉は固唾を飲んで、冷や汗をかいてしまった。今までも緋月はおちゃらけた雰囲気が無くなることはあった、まるで別人のようになったかのように。でも、今の緋月は違う。別人のようではなく、当たり前だが緋月本人だ。


『緊急警報! 緊急警報‼︎ 北正門にて魔物の大群を視認! 数はおよそ五百とのこと! 繰り返します!』


警報が暫く鳴り響いた頃、女性の声が切羽詰まったような声で、そう警報の内容を知らせる。その言葉に葛葉や五十鈴、地面に顔を埋めて倒れていた律もギルドに顔を向けた。


『Lv.3から2の冒険者は直ちに北門に集合して下さい!! Lv.1の冒険者は住民の避難誘導をお願いします! 繰り返します!』


更に続けられる警報に、葛葉達が目を合わせる。緋月や葉加瀬はどこか呆れ気味……というか呆れると言うか残念がって居る? そんな感じだった。だがそれもそうだろう。当たって欲しくない予感が見事的中してしまったのだから。ここ数週間で前兆はあった、対策も出来たはずだった、のにも関わらず本当に起きてしまったのだ。


「……はぁ。葛っちゃん! 聞こえたね? 君達は住民の避難を頼んだよ!」

「ひ、緋月さんは⁉︎」


葛葉にそう言い走り出そうとしていた緋月に、葛葉が急いで声をかけた。緋月は既に戦闘衣装に着替えており、戦闘準備万端と言った感じだ。


「ボクは最前線で頑張んないとね!」


グッジョブと親指を立てて、ドヤ顔をしながら走り去ってしまった。確かに、あの人が最前線に出れば五百なんて数が一桁に思える程に、あの人は強いのだから納得は出来るが……。少々複雑な気持ちで居ると、スタスタと白衣のポッケに手を突っ込みながら歩いて行く葉加瀬の姿があった。


「……葛葉ちゃん達は避難誘導を頼んだよ」


そう言って、葉加瀬も緋月の後を追うのだった――。

読んで頂き、ありがとうございます‼︎

もう後戻りは出来ない……ですね!

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